日垣氏は高い方をメルマガで書評しているので、私はこちらを取り上げておこう。
「ガッキイファイター」2005年9月27日号本は1冊、靴は2足、箸は3膳、ストライキは4回または4波、ビルは5階、 棘(とげ)は6本、遺伝子は7個、屏風(びょうぶ)は8双(そう)、たらこ は9腹……。
確かに日本語の数詞は多彩だが、数詞があるのは日本語だけではなく、中国語にもある。"Two Ships"ではなく「二隻」であり、実は日本語の数詞も中国語から結構輸入していることは覚えておいて損はないだろう。
でも、ちょっと考えてみてください。英語で「1」は、人でも魚でも机でも 葉書でもナイフでも家でも宇宙船でも星でも、a(an)かoneでしかありません。
その英語にも、実は数詞的な使い方をする語句があり、そしてそのありようは以外にも数詞に似ている。例えば、対になっているものはほぼ必ず"pair"で数える。だからパンツやはさみは常に複数形というわけ。
さらに英語をはじめ、インドヨーロッパ語族のほとんどは、単数と複数を区別する。しかも複数形もいくつもあってややこしい。語尾にsを付けるだけでは済まないものも多い。電脳言語の世界でも、たとえばPerlではそれをカバーするためのモジュールが出ているぐらいだ。
これだけではない。インドヨーロッパ語族では、離散量と連続量、すなわち数えられるものと数えられないものまで区別する。水でも人でも日本語では大杉、もとい「多過ぎ」で通るが、英語では"much water"で"many people"である。
この数えられないものも、器に入れたら今度はその器を数えることになる。"a cup of water"というわけである。金も本来"how much"だが、通貨をかますと"how meny yen"(そう、yenはなぜか単複同形)となる。実は、数詞とはこの器のことである。日本語や中国語では器があるものにまでもう一段「包装」するところが面白いといえば面白いが、数詞に関しては私はむしろ各言語の共通性の方に目が行く。
インドヨーロッパ語族にはさらにややこしい、「主語と動詞の一致」(Subject-Verb Agreement)というのがある。"I love her"は攻守を変えたとたん"She loves me"となり、日本語のようには行かない。英語以外のインドヨーロッパ語族を知っている人は、英語はその中では易しい方だということも知っているだろう。他のほとんどが"a"や"the"まで変化する。あと英語は目的語(object)はひとまとめだが、他は対格(accusative)と与格(dative)で語形変化が異なる。そうそう。英語で語形変化するのは代名詞だけで一般名詞はそのままだけど、他はそうでもないというのもあったな。ああきりがない。gimmeabreak :)
これは私の憶測なのだが、この手の「余計なルール」、またはSyntactic Sugarというのは言語の歴史が長ければ長いほど少ないように見受けられる。例えば英語には不規則動詞が200以上あり、そして不規則動詞の方が高頻度で使われる。日本語はわずか2つ(「くる」と「する」)。しかしこれも高頻度で使われる。そして中国語では0である。
しかし面白いことに、文法の単純化が進むと、あとで余計なルールを付け、これがさらに言語を面白くすることもある。数詞というのはこの類いかもしれない。
むしろ日本語の威力は、接尾辞、すなわち「てにをは」にあるかも知れない。おかげで複雑な語形変化を全て放逐した上で、新しい言葉をどんどん持って来れる。英語には"I"しかないが、日本語には私も僕も俺も拙者も自分も朕もミーも漏れもある。しかもてにをはのおかげで、語順も多彩だ。「私はあなたにこのエントリーを捧げても」、「このエントリーをあなたに私が捧げて」もいいのだ。格変化が激しいラテン語などもこれが出来るが、その代わり語形変化を全て覚えなければならない。中国語なみにシンプルな文法とラテン語以上の多彩な表現。それこそが日本語の自慢すべき点であろう。
あと、語形変化を接尾辞におきかえたもう一つの美点が、辞書の引きやすさである。英語ではbeだけ覚えてもbeを辞書で引けない。am,are,is,was,wereと残り5つ揃って初めて一組だ。これでは私と俺を切り替えるだけの余裕は持ちにくい。
しかし、この便利で美しい日本語は、電脳で扱う時には悩みの種なんだよなあ。文章をばらして行く時に、接尾辞のおかげで膠着語なのでspaceでsplit //なんて出来ないし。並べ替えもアルファベット順というわけにも行かないし。そもそもなんて読むのかわからない漢字も多いし、その漢字だって本来自由に創作できるのだけど、それに文字コードを割り当て流通させるのは至難の技だし....
Dan the Nullingual
追伸:
なお、この辞書には卵子はあるのに精子の数え方は出てきません。生真面目 な女性の手になるものだからでしょうか。
個か匹か尾か。魚じゃねえんだから、個でいいのかな。泳いでいるときは匹 で、止まったら個で、到着したら1ゴール。まさかね。
中国語だと「一条」っぽいなあ。到着したら相続人が「一人」。

全体を線状に見るのでなく、頭のかたまりに注目するみたい。