「技術戦略」はあっても、果たして「戦略技術」というのは存在しうるのだろうか?

My Life Between Silicon Valley and Japan
グーグルは明らかに「戦略技術」の開発を最優先事項とする会社として登場した。ネット産業界の突然変異だった。だから最初は皆、グーグルが何をやっているのか、何を目指しているのか、全くわからなかった。しかし2002年頃からグーグルの台頭が誰の目にもはっきりとわかるようになり、それに刺激された米ネット列強は「基盤技術」だけでなく「戦略技術」を持つことの重要性をようやく認識した。しかし残念ながら、ライブドアを含む日本のネット列強はそうではなかった。そして今もそういう状況が続いている。

私としては「本質」という言葉を濫用したくないのだが、技術の本質は可搬性(portability)にあるというのは言い過ぎではないと思う。身もふたもない言い方をすると、技術というのは真似することが出来る、ということである。20世紀の「戦略技術」であった核兵器もその例外ではなかった。合州国がこの技術を独占していたのはわずか数年に過ぎなかった。

その核兵器を運ぶための「戦略技術」であるロケットでは、今度は当時のソ連が合州国を出し抜いた。しかしこれもまた数年で合州国が追いつく。さらにそのロケットを運ぶための「戦略技術」であるミサイル原潜はアメリカが先行したが、これまたソ連がそれに追いつくのにはそれほどの時間を要しなかった。

こうした「戦略技術」競争に歯止めをかけたのは、皮肉にも技術の進歩ではなく経済だった。ソ連が破れたのは技術戦争ではなく経済戦争だったのだ。

Googleの戦略も、実は技術戦争の皮を被った経済戦争なのではないだろうか?技術はすぐに真似されるが、新技術を生み出すには金も手間もかかる。誰かがGoogleの真似をしたとしても、Googleは新技術で先を行く。さらに真似されるとさらに新技術を繰り出す。そうこうしているうちに、ライバルは根を上げ、Googleはますます値を上げる、というわけだ。

実際Googleの収益源は、Google Mapsなどの新技術というよりは、Adsenseに代表される広告だ。この点において目新しいところはほとんどない。新技術に目がくらんでいるうちに、しっかりと50年代に確立されたビジネスモデルで稼ぐ。それが今のGoogleである。Class A Stockに至ってはまさに合州国の古典的メディア企業の戦略そのものである。

大西 宏のマーケティング・エッセンス:時価総額でハイテク世界二位となったgoogleはどこにいくのだろうか?
googleがどこに行こうとしているのかは興味深いところです。いまは広告収入で稼ぐというモデルが成功しており、技術的な話題はさておき、web上の情報に限らず、あらゆる情報を取り込むことを目指しているという姿勢は覗えます。googleの利用度が上がれば上がるほど、広告収入は増加します。だから、ビジネスモデルということでは、広告収入で稼げるあいだはそれでもよく、マイペースでいくつもの実験をやっていけば、明日も見えてくるからいいじゃないかという感じかも知れません。

私はむしろ梅田説よりも大西説に説得力を感じる。Googleの繰り出すきらびやかな新技術のほとんどは、実のところはかつての「スターウォーズ戦略」と同じ「ライバル騙しのための目くらまし」と言えば言い過ぎだろうか。もちろん、その中には「本当に儲かりそうなもの」も混じっている。Google Mapsはまさにそうだろう。しかし、Googleに取って最も大事なのはAdsenseであり、Adsenseが盤石である限りこれらの新技術は「当ればラッキー」程度であるということも確かだ。

それよりは、googleにとってのリスクは、日経が書いているように、むしろ人材確保やスタッフのモチベーションをあげるために発行している譲渡制限付き株式やストックオプション(自社株購入権)が、やげて利益を圧迫してくるかもしれないという見方のほうがリアリティがあるように感じます。

私はこの本業のAdsenseこそが最大のリスクだと考えている。実際最近のGoogleの検索に関する技術革新は、かつてほどのスピードが見られない。blogのインデックス化などは、むしろAsk JeevesLivedoorの方が早い。Adsense的な広告エンジンもすでにdrk7.jpさんのところやアサマシ.NETなど草の根レベルのものも登場している。もっともこれらの草の根レベルのものは一部インフラをAmazonやGoogleやYahoo!などに依存してこそいるが、Googleの外にもGoogleを実装できる人はいくらでもいる傍証にはなる。Googleとしては彼らが「敵」に回る前に「囲い込む」という戦略がありえ、また実際そうしているのだけど、全ての技術者を囲い込むことは、技術者の特性から考えて不可能だろう。

技術を知れば知るほど、戦略技術という言葉が空しく響くのは技術に対する皮肉だろうか。

Dan the Strategic Engineeer (?)