ネットの話題として、時候の挨拶の次に多いのが、実名/匿名問題かも知れない。
My Life Between Silicon Valley and Japan - Blog論2005年バージョン(2)アメリカは実名Blogが多く、日本は匿名(ペンネーム)Blogが多いというのもよく言われていることだが、それとも関連するのかもしれない。
これはすでにありふれた考察で、すでに数ある「日本では欧米では」論の一つとして扱われているかも知れないが、この考察に関してはどちらかというと「今頃そんなことを。今や日本だって」という反論よりも、「うん、確かにそうだよな、でもなぜだろう」という同意に基づくさらなる考察を志向する。
実名とは、一種の「口座」なのではないか。文字通り「名声」(reputation)を決済するための。
だから、名声を受け取りたかったら実名を晒すしかないのである。もちろんペンネーム(あるいは「コテハン」を使う事もできるが、この場合、名声はそのペンネームに帰属し、その人の「実名世界」には帰属しないので、せっかく「振り込まれた」名声も実名世界で「援用」することは出来ない。
実は、「受け取る」ところまでは匿名でも可能ではある。やり方は2chを見ればよい。
>>128 テラワロスwww
というあれだ。確かにこの時点で発言番号128番の「名無しさん」は、「テラワロスwww」という「反応」を受け取っている。この名無しさんは他の名無しさんとは別人だ。もちろん発言右側に現れるID:dEAdbEEfという識別子だって使う気になれば使えるだろうが面倒だしそれはおいておく。
しかし、この発言番号128番の「名無しさん」は、それを「持ち帰って」「再利用」することはできない。名声の流通と決済が、板を超えることは「名無し」である限りありえないのだ。匿名での名声には、流動性がないのだ。
それを念頭におきつつ、梅田氏の言葉をもう一度見てみる。
My Life Between Silicon Valley and Japan - Blog論2005年バージョン(2)アメリカに住んでいて思うのは、アメリカ人の自己主張の強さ、「人と違うことをする」ことに対する強迫観念の存在である。
そう。合州国において、名前というのは明らかに「名声の振込口座」として見られている(実際は小切手決済が多いので、これはかの国では使えない比喩だが(苦笑))。彼らにとって名前とは「売り込むべき」ものであり、それゆえありとあらゆる機会を捉えて名売りに励む。
しかし、もしこの口座が、振込口座ではなく振替口座だと認識されていたらどうだろうか?
日本がまさにそれに当るのではないか。
asahi.com: 経産省部長ブログ「炎上」 PSE法巡り書き込み殺到 - 社会ブログで谷さんは、この法律への理解を求めた。だが、同法に対する意見に交じり、反対派とみられる人たちから「死んでわびろ」「能なしの税金泥棒」など中傷も寄せられた。冷静な意見を含めて、書き込みは最終的に1600通にのぼった。ネット用語で言う、書き込みが殺到し、収拾がつかなくなる「炎上」状態になった。他のネットの掲示板でも話題になり、騒ぎは大きくなった。また、ブログ更新が平日の勤務時間内だったため「公務中の更新は問題」と議論は思わぬ方向に飛び火した。
こういった場で、実名で谷部長と対峙する人はほとんどいなかったろう。実名で「死んでわびろ」といえばそれは本人に必ず帰って来てしまう。上述のように匿名であるということは、名声を受け取れないということでもあるが、逆に言えば「負の名声」の決済を彼らが迫られることもないということである。
谷部長のblogは、その意味では振替口座となってしまったわけだ。しかも匿名で残高を引き出せる。
これでは、実名で発言しようという気も引けるのではないか。日本では名は文字通り惜しむものというわけなのだろうか?
私がblogに限らず実名を使い続けるのは、それでも振込額が振替額より多い、「黒字」の状態に持って行けるという自信がそこそこにあるからだ。だからTVで得た「名声」もblogで「再利用」できるし、blogで得た「名声」を実世界で「援用」することも自由だ。もちろんその代償として、「汚名」もまた再利用されるというリスクを追うわけだが。
当blogは、アクセス数などの割にはコメントが比較的少なく、むしろ反応はTBやはてブなど、実名とは言わないまでもコテハン程度には「所有者」が明らかなところから来ることが多いのだが、面白いことにこれがネガティブなものだとほとんどが匿名である(実はIPアドレスがblog管理人には通知される以上、それほど匿名性は高くないのだが)。
実は発言そのものの価値は、実名と匿名でさほど変わることはないと思う。さすがに2chを私が巡回することはないが、ニャー速程度は時々眺めるし、Refererが2chの板ならとりあえず覗いてみることぐらいはする。彼らのほとんどが社会的にも知的にも劣る「厨房」だとはとても思えない。しかし臆病であるとは思う。そしてなぜ臆病になるのかを思い図ると、上記のような結論になるのだ。
とりあえず、欲深い私は実名で行く事にする。
小飼 弾 aka Dan the Man with Variable Signatures
追伸:
404 Blog Not Found:親の資格-ぬっこさんのコメント
時間を割いてこのような書き込みをしていただけているということは、私の書き込みを単なる「荒らし」扱いで一蹴していらっしゃらないということと思い感謝します。
とおっしゃるのであれば、やはりご自身でblogを開設して、そこからTBするなりcomment欄にblogへのlinkを残すなりされた方がよろしいのではないか。佐藤さんがそうしたように。
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