2006.05.26 初出
2014.06.06 文庫化につき更新

Connection MachineのEntryを書いてから、原著の方をむしょうに読みたくなったのだが、入手がなかなか困難そうなので、The Society of Mindと一緒に買ったのがこちらだが、これはお薦め。

本blogの読者であれば、訳本がある場合でも私が原著を優先して紹介していることをご存じだと思う。「最も易しい解説書は原典」という持論もさることながら、入手が格段に容易になったという点も大きい。かつて原著は都会の大書店でないと手に入らず、しかも現地買いより3-5割高く、そして取り寄せにえらい時間がかかるというのが常識だったが、今ではベストセラーのペーパーバッグであれば、現地と変わらぬ値段でAmazonが24時間配送してくれる。

とはいえ、そこから外れてしまう本も確かにあるわけで、本書は出版から少し時間を経ているということもあって、原著はすべてマーケットプレイス(古書)扱い、倍のプレミアがついているというのでは、さすがの私も原著を奨めにくい。

というわけで本書を「いやいや」購入したわけだが、いやはや、素晴らしい出来である。

特に関心したのは、ルビの使い方。半導体トランジスタ演算処理コンピュテーションという書き方をしてくれているおかげで、日本語としてのリズムを損なうことなく、英語の原著の雰囲気も味わえる。どうせなら基本部品Building Blockという風に英語そのままにして欲しかったが、縦書きで上手に組版するのが難しかったのだろうか。

本書は、電脳Computerがいかに簡単な構造で出来ているかを、実にわかりやすく解説した上で、人工知能Artificial Intelligenceに関する Hillis の当時(1998年ごろ)の「いまの気持ち」を率直に語ったもの。

その全体を通して貫かれるテーマは、「単純なものから構成された複雑なものは、単純なものから構成されているから神秘性が損なわれるのではなく、だからこそ神秘的なのだ」ということ。Hillis自身の言葉から引用する。

pp.272
私は、知性の源を侮辱しようとして「脳はマシンである」と言っているわけではない。私は、マシンの能力の潜在性を認めようとして、「脳はマシンである」と言っているのである。人間の頭脳は我々の想像以下のものではなく、マシンは我々の想像をはるかに超えるものである。私は、そう信じている。

私は1st Nameだけではなくこの部分もHillisと共有している。

この本は、電脳関連の技術者もさることながら、文系の人、特に哲学志向な人にお薦め。本書を読み解くのに必要なのは、電子工学の知識でもなく、数学の知識でもない。好奇心さえあれば大丈夫。ブール演算すら、本書が手取り足取り教えてくれるので、知っておく必要がない。そう、この人はConnection Machineだけではなく、Tinkertoy Computerを作った人でもあるのだ。

それにしても、自分で設計したチップを自分で顕微鏡で覗く光栄にあずかることが出来る日本の研究者ってどれだけいるのだろう。Dannyにはそれが出来て弾にはそれが出来ないのは、やっかみでも能力差でもなく、環境差なのである。まだまだこの分野、というか「分野未設定」の領域における日米の差はこれ一つとっても大きい。

日本の子供たちが、Hillisなみにのびのびと「遊べる」環境はいつか日本にも登場するのだろうか....

Dan the Pattern on the Brain

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