これを見てすぐPaperbackを予約注文して(ハードカバーなら待ちなしなのに、せこっ)、到着したのが今週のはじめ。あえて一気読みせず毎日少しずつ読んで、さっき読了。

404 Blog Not Found:あなたは何の役に立つのか? - 板倉さんのコメント
チャールズ・ストロス『アッチェレランド』http://www.accelerando.org/ を地で行ってらっしゃるのですね。

いや、面白い!これは書評せねば、その前にitaさんはどういう感想をもったのだろうとJGeek Logをたどっても関連記事は見当たらず。日本語のみでぐぐっても作品"Accelerando"の言及は、Amazonのページを除いてまだなしの状態。なにしろitaさんのコメントが30何番目に来る。ということは日本ではまだほとんど読んだ人がいないという状態? itaさんは

JGeek Log
ええええ!そうだったっけ?

とイリウムと新環境で盛り上がってるようだし、ここは拙者が代わって紹介させていただきます。

日本での無名度とは裏腹に、すでに英語圏のSF otakusphereではすでに一通り旋風がかけぬけた後のようで、それもそのはず、作者のStrossはそのためにわざわざwww.accelerando.orgというドメインまで取っていて、当然I feel Accelerandoとやると直にそこに行きます。.comでなくて.orgというのがなんとも心憎くて、なんとお話そのものはここにてCCで公開されているという太っ腹ぶり、というか、Manfred Macxの生みの親にふさわしい。

それで、itaさんの感慨、「地でいっている」というのは、この「最初の」主人公、Manfred Macxのこと。でも私はこんなに「すごく」ない。少なくとも$12,362,916も税金滞納してないし:)

で、どんな話か、というと、超近未来から「遠未来」のお話。どれくらい近未来かというと、最初のエピソードはまだ今から10年も経っていない。Sci-Fiというより現代サスペンス。ただ時代設定が近いというのだけでなくて、その世界がいかに「今」と近いかを示すために、著者はこれでもかこれでもかと言うぐらい「今そこにあるもの」を登場させます。SonyだのMicrosoftだのAirbusといった会社名がフツーに登場するし、主人公のペット、というのか隠れた主人公はAiboの「三代目」ということになってる、Aineko。

その今から10年と離れていないManfred Macxを筆頭に、Macx三代を通した人類の進化が本書の主旋律なのだけど、いやあ、Accelerandoの名に恥じず、章を追うごとにテンポは上がっていき、店舗は上がったりになります。

そこで最初にキーとなる旋律が、Manfredが体現した、社会のオープンソース化。オープンソースが提示した考えを、「あっち側」だけではなく「こっち側」にも適用したらどうなるのか、というのが本書の最初の思考実験です。

その間にも、ロブスターはとびかうは、Manfredの恐妻Pamelaが、子種が飛び散らないように瞬間接着剤をあてがうわ、なかなかのMultitaskぶり。確かに表紙のreviewにあるように、

Accelerando is to cyberpunk what Napster was to the music industry: volatile, visionary, a bit flawed, and a lot of fun.
-- Entertainment Weekly

Geekの脳味噌をひっくり返してぶちまけたようななんとも言えないヤミナベ感たっぷりです。Society of Mindだの、Moore's Lawだのといった、Sci-FiよりITにふさわしい言葉も遠慮なく飛び出しますし、Strossの言語センスは、FictionというよりIT的です。

極めつけは、Economy 2.0。この言葉がどこで飛び出すかは読んでからのお楽しみですが、本書はTim O'reilleyの"What Is Web 2.0"よりも本書の(ハードカヴァー版の)上梓の方が先なのです。名詞バージョニングに関しては、本書が先輩(もちろんさらなる大先輩、Ester Dysonがいるのですが)。

Sci-Fiは、Geekたちの少年時代の心の糧として、実は心理学的にかなり大きな影響を与えてきたのですが、ここに来てその逆、Geekの心理がSci-Fiにフィードバックされるという状況がかなり進んだように思えます。もちろんこの傾向はCyberpunkなる言葉が発明された頃から続いてきたのですが、ネットが「未来」から「現在」になり、かつての空想が現実になってくるとその感慨もまた別の味わいがあります。

とはいえ、使っている「楽器」はCyberpunkでも、「主旋律」はむしろSci-Fiの王道である「人類史」。「幼年期の終わり」から「ファウンデーションもの」から「ブラッド・ミュージック」から....(中略)「ディアスポラ」に至る、「これから我々はどうなりうるのか」ということを真っ正面から取り上げた作品です。

ただし、今のところ英語のみ。Ainekoにotakuといった言葉は登場しますが、口語体、それもかなりGeekyないいまわしが多いので、Sci-Fiを読み慣れていない人には結構きついかも。でも自分の英語力に挑戦するつもりで一読する価値あり、です。それだけのValue 2.0はありまっせ!

もちろんオフィシャルサイトから無料で読むというのも何の問題もありませんが、ペーパーバック版は900円しないのです。フォントの問題も考慮すると買って読んだ方がいいでしょう。少なくとも私には正解でした。

Dan the Venture Altruist

itaさんのコメントを受けて追記:

なんと、StrossはCPAN Authorでもありました。

Larry WallのSpeechについて行けるなら、読み通せます!

ただ翻訳となると、別でしょう。私もState of the Onionの翻訳は宙に浮かせたままですし....

追記2.0: そういえば、EganもなかなかのJava Programmerですし、ひょっとして今時のHard Sci-FiにはComputer ScienceがPrereqなのでしょうかねえ?