それを地、ではなく水でいっている生物がある。
分裂勘違い君劇場 - 世界に一つだけじゃない花そして、その闘争を勝ち抜くための、もっとも効果的な戦略は、命を使い捨てにすることだ。
魚類、である。
「大衆魚のふしぎ」の著者、河井氏は、それを「魚道とは死ぬことと見つけたり」と葉隠をもじって表現しているが、面白いことに、魚類では、進化したもの、すなわち後になって登場するものほど産卵数が多いようなのである。
軟骨魚類であるサメやエイの出産数は本当に少ない。大型ほ乳類なみで、卵胎生のものも少なくない。その繁殖力の弱さのおかげで絶滅が心配されている。これが硬骨魚でも比較的古いサケ・マスになると数千。これでもほ乳類の基準から行くととても多いのであるが、魚類としてはまだ序の口。これがマグロともなると1億、マンボウに至っては数億のオーダーになる。
ちなみに本書によると、魚類においては一般的に陸生脊椎動物の後肢にあたる腹鰭が前の方にあるほど「高 等」なのだそうで、確かにサケ・マス、イワシやサンマでは胸鰭と腹鰭はトカゲの前肢後肢ぐらい離れているが、スズキ科のカツオやマグロは胸鰭と腹鰭はほぼ同一直線上にならんでいて、これがタラともなると腹鰭の方が胸鰭よりも前にある。

マグロのように巨大で食物連鎖のかなり上にいる魚でも、稚魚の大きさはイワシのそれと変わらない。「親が大きければ大きいほど、大きな子どもを大事に育てる」というほ乳類的常識はここではあてはまらない。それどころか、親の体が大きな、魚食魚の方が、プランクトンを食べて育つ魚より過酷な成長過程をたどる。
イワシやサンマなどのプランクトン食の魚は、沿岸のわりと食物が豊富なところで産卵する。子どものことを思えばそれこそ普通だが、これがマグロなどになると、エサらしいエサがない南洋に卵を「生み捨てる」。こうして生まれた稚魚の餌はなんだろうか。
兄弟、なのである。右のキハダマグロを見て欲しい。まるで尾びれのついたパックマンである。これで兄弟をせっせと食べるのである。
共食いのおかげで、たとえ産卵数が1億でも、稚魚の数はあっという魔に適正レベルまで下がる。たった26回の共食いで2匹以下になるのである。さすがにそこまで共食いはしないようであるが、ご幼少のみぎりは兄弟が餌というのは、これらの魚のチャンピオンにとっては常識のようなのである。
魚類は現在2万5000種が見つかっており、大型生物としてはほ乳類や鳥類よりも成功しているといえる。もちろん占めているニッチの大きさの違いといってしまえばそれまでだが、それを勘案しても、脊索動物門の中最も成功した動物であることは間違いないだろう。
その魚類が、ほ乳類や鳥類といった陸生動物とは全く逆の繁殖戦略を取っている--取っているものが多いというのは非常に興味深いではないか。
なお、本entryにあたっては、「しんゆうのBOAT FISHING」のコラム、「65 大衆魚のふしぎ」から図版を引用、というより孫引きさせていただいた。「大衆魚のふしぎ」に関しては、同コラムの方の方も参照していただきたい。というか、同コラム、ほとんどが引用なのだけど、いいのかなあ。
残念ながら本書は1993年刊行ということもあって、新刊の入手は難しそうだが、中古であればまだ手に入るようだ。興味があるかたはぜひ入手。
A Fish Called Dan
あっという間に
ではないでしょうか?