本書は柳の下のどぜうではなく、柳川鍋である。
ただし今までのどぜう料理の中では一番うまい。
もし手元に千円札が一枚しかなくて、現在のWebを取り巻く環境について一冊で俯瞰したかったら、今なら「ウェブ進化論」でもなく、「Google - 既存のビジネスを破壊する」でもなく、本書をすすめる。本書には今までのGoogle本のエッセンスに加え、これらの本では得られない知見が含まれているからだ。
まず、類書では「おまけ」としてしか扱われていないAmazonに関して、きちんと一章を費やして説明していること。実はGoogleにも一章を費やしているし、タイトルにもその名が入っているが、Google一辺倒でないところが大変よろしい。これだけでも本書の方が「Web考現学本」として他にすぐれている。
次に、技術に関する知識が類書の著者より優れていること。「ウェブ進化論」や「Google - 既存のビジネスを破壊する」より、本書は明らかに「理系的」である。検索エンジンのアルゴリズム一つ取っても、Page Rankだけではなく、それ以前の方法である TF (Term Frequency) や IDF (Inverted Document Frequency) にきちんと言及している。
そしてなんといっても、GoogleやAmazonに対する、梅田氏の言う「楽観主義」だけではすまない、「でもこれで本当にいいのだろうか」という違和感をきちんと言語化しているところがすごい。この「違和感」に関しては、私もしばしば本entryで言及してはいるが、ここまで系統だって言語化したところに著者である森氏の非凡さを感じる。
それが一体なんなのか、ということは本書をお読みいただくとして、その一旦はオビからも伺うことができる。
「グーグル・アマゾン化する社会」オビ多様化、個人化、フラット化した世界で、なぜ一局集中が起きるのか?
実はそれへの答えは、本書だけではなく、本blogにもあるし、広いblogosphereの中にはすでにいくつもある。しかしそれらを丹念に探すのは検索エンジンを駆使しても至難の技だろう。本書を読む方が速いことは折紙をつけさせていただく。また「すでに知っている」という人も、改めて「答え合わせ」のつもりで本書に目を通すことをおすすめする。
一つ疑問なのは、ここまで鋭い視点と取材力を持つ著者の森氏が、なぜ本書を「ブログ本」の形でまとめなかったかだ。実は氏はすでにblogを開設してはいる。
The Blue Note-Books | 新刊案内『グーグル・アマゾン化する社会』
梅田望夫さんの『ウェブ進化論』や佐々木俊尚さんの『Google』のほか、いくつものGoogle関連の本がノウハウ本やビジネス本を中心に多く出ているので、二番煎じ、ないしは「またグーグル本かよ!」という声が聞こえてきそうですが、ちょっと毛色が違います。
その毛色の違いは本書をご覧いただくとして、何とこのentryの前のentryは4月7日。これではblogの力を活かせない。残念ながら氏のWeb上のプレゼンスは、梅田氏や佐々木氏と比べると貧弱だ。氏のblogのPage Rankはわずか2。梅田氏をはじめいわゆるアルファブロガーのPage Rankは5ぐらいある(ちなみに本blogも5)。佐々木氏は「自前」のblogこそ持っていないが、WiredやCNETといった、もともとWeb上のプレゼンスが高いメディアに場所を確保している。氏の考察力、取材力は上述の両氏に勝るとも劣らないだけに、この「自己セールス力」の弱さが惜しまれる。ましてや後発なのだから、「いい本を書く」だけでは不十分で、「上手に売って行く」工夫ももっと必要なのではないか。氏自身は「どうしたら売れるのか」実は熟知しているのは、本書を読めば明らかなのに。
その点は今後に期待すると同時に、本blogでも紹介した次第である。すでに「ウェブ進化論」や「Google - 既存のビジネスを破壊する」を読んだ人も、まだこれからの人も、是非一読のほどを。
一点だけ注意。史実に関しては事実誤認箇所が結構ある。たとえばブラウザの由来など。このあたりはやはりちょっと気になる。このあたりはerrataのページが欲しいところ。
Dan the Reviewer
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非常にうまく行くと言えるかもしれない。
逆にリアルではポイントの方が効果はあるかも。
個人的にはネットはギフト・何も無し
(ポイント程じゃなくても最初から
ポイントの半分程度惹かれている方がいい)
リアルは何も無し
(ポイント程じゃなくても最初から
ポイントの半分程度惹かれている方がいい)
が魅力を感じる。