門倉貴史は「404 Blog Not Found:犯罪経済学が欲しい」で以前紹介とおり、地下経済とBRICs経済という、他の経済学者があまり手を出してこなかった分野のパイオニアだ。後者はとにかく、前者に関しては未だに彼以外の研究者が少なそうで残念である。

そんな門倉氏がなぜ孤軍奮闘できるのか?秘密は本書にある。

「統計を疑え」という言葉は耳にたこが出来るほど聞く。しかし具体的にどんな統計をどうやって疑い、どうやって有意の情報を引き出すのかをきちんと解説した本は、統計の参考書ですら少ない。本書はまさに砂漠の慈雨である。強いて類書を探すと反社会学講座ということになるが、こちらはすでに疑い方を知っている人向けで一段高度。反社会学講座をよんでイマイチピンと来なかった人は、本書からはじめるとよいのではないか。

門倉氏の兵糧は統計であり、そして武器はその分析力。本書「統計数字を疑う」はいわば門倉氏の仕事術を惜しげもなく披露したものだ。

目次
  • まえがき――死んでも死者にならない、交通事故死者数の怪
  • 第一章 「平均」に秘められた謎
  • 第二章 通説を疑う
  • 第三章 経済効果を疑う
  • 第四章 もう統計にだまされない――統計のクセ、バイアスを理解する
  • 第五章 公式統計には表れない地下経済

この第一章だけでも、料金分の価値があると思う。ここでは統計の基本である平均をもういちどきちんとおさらいする。平均というと、我々は算術平均ばかり注目するが、他にも幾何平均、調和平均と平均にもいろいろある。ここまでは確か高校でも教えてくれるのだが、しかしそれらにどんな意味があり、どのように使いこなすべきかまではクラスでは教えてくれなかったはずだ。門倉氏は、実際の統計を元にこれらを紹介しなおしているので、教科書とはコクが違う。

留意点として、本書は他の新書ほど「読みやすく」ないことがある。門倉氏の他の著書と比較してもそうだし、第二章以降はグラフも数式も遠慮なく出てくる。ページ数も275ページと他より厚い。しかし、本書は「読む本」というより「使う本」だ。他の場面で統計やグラフを見かけて、その主張に違和感を感じたときに、「門倉は何て言ってたっけ?」と思い起こしつつページをたぐるのが上手な賞味法。これが税込み777円はあまりにお買い得というものである。

それにしても今年は光文社新書の当たり年だなあ。

Dan the Statistically Skeptic