日垣さんの出世作、「そして殺人者は野に放たれる」がついに文庫化された。
文庫化されてすぐに入手したのだが、すぐに書評できなかったのは、やはりオビにもある
本書は、愉快な書物ではありません。あまりにも深刻な事件が多すぎて、ご気分を害されることもあるでしょう。
という、その強烈な苦さにある。この私でも、毎日少しずつ読むという読み方を選ばざるを得なかったほどに。しかも単行本の方を前に一度読んでいるにも関わらず、である。
以下を見るだけで、その苦さが伝わるのではないか。日垣節の魅力はその苦みにあるのだが、氏の他の著書がコーヒーなら、本書は救命丸か青汁か。
目次- 序章 通り魔に子を殺された母の声を
- 第1章 覚醒剤使用中の殺人ゆえ刑を減軽す
- 第2章 迷走する「責任能力」認定
- 第3章 不起訴になった予告殺人
- 第4章 精神鑑定は思考停止である
- 第5章 二つの騒音殺人、死刑と不起訴の間
- 第6章 分裂病と犯罪の不幸な出合い
- 第7章 日本に異常な犯罪者はいない?
- 第8章 闇に消える暗殺とハイジャック
- 第9章 心身耗弱こそ諸悪の根源
- 第10章 判決に満悦した通り魔たち
- 第11章 刑法四〇条が削除された理由
- 第12章 日本は酔っ払い犯罪者天国である
- 第13章 もう一つの心神喪失規定「準強姦」
- 第14章 女性教祖「妄想」への断罪
- 第15章 家族殺しが無罪になる国
- 第16章 人格障害者という鬼門を剥ぐ
- 終章 古今東西「乱心」考
- あとがき
- 文庫版あとがき
- 解説 斎藤 環
しかし、この苦さは、本書が良薬であることの何よりの証しである。その効用は、「プロ」である斎藤環をして、こう言わしめている。
文庫版解説よりしかし、およそどんな誤解の余地もないほど公正かつ明晰に書かれた本書に、果たしてどんな「解説」が必要でしょうか。
とはいえ、文庫版がオリジナルより口当たりが少しよくなっているのは、値段が手頃になったことだけではなく、この斉藤環氏の解説も大きい。本編よりも解説の方を先に読む読者も少なくないようなのだけど、もし本書の苦みをいきなり飲み干すのが辛いなら、この解説から先に「口にする」のもよいかも知れない。
オビよりけれども、「正常と異常の境界線はどこにあるのか」「なぜ人は罪を犯すのか」は、おそらく人間にとって大切なテーマだろうと思います。
もし上記に異論がないなら、本書を必ず手が届く場所に備えておいて欲しい。なぜ殺人者たちが野に放たれてきたかの理由は、間違いなく本書のテーマから我々が目を背けてきた結果でもあるのだから。
Dan the Sinner but not Criminal, Weird but not Insane
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