危うく見落とす所だったが、これは面白い。

「年末年始に一冊新書でも読んでみるか」という人は、是非本書を忘れないようにしていただきたい。

本書「『負けるが勝ち』の生き残り戦略」は、副題の「なぜ自分のことばかり考えるやつは滅びるのか」ということを、実験科学的、すなわちシミュレーションにより考察した本である。

目次
  • プロローグ 情けは人のためならず
  • 第1章 スキャンダル候補が選挙で生き残る
  • 第2章 じゃんけんゲーム
  • 第3章 進化とは最適化のプロセス―自然選択ということ
  • 第4章 「負けるが勝ち」の進化論
  • 第5章 近親婚を避ける生物界のシステム
  • 第6章 なぜ男の子の出生率が高いのか
  • エピローグ 汝の欲せざるところを他人に施すなかれ

本書の最大の美点は、ページ数が少ない事。最低200ページが相場なのに、何と170ページを切っている。新潮新書は厚さを抑える事で成功したが、それよりもさらに薄いのだ。だから税込み714円という「相場価格」は、却って高く感じる人もいるかも知れない。

違うのだ。これだけ大きな話題を、これだけ少ないページ、しかも大きな文字と豊富な図版まで含めてこれだけのページに収めた事がすごいのだ。ページが少ないから、あっという魔に読める。これなら本が苦手な人でも大丈夫だ。

逆に、本を大量に読む人は、こういった本を見ると「他が他で書いた事ことの焼き直しではないか」という疑念を抱くものだ。扱っているのが科学である以上、他に言及するのは仕方がないとしても、本書はオリジナリティの点でも劣っていない。なにしろシミュレーションのいくつかは、著者自身の論文がベースとなっているのだから。

特に注目に値するのは、囚人のジレンマの考察。最近では非常によく知られているこの問題だが、「しっぺ返し戦略」以上の戦略ともなるとまだ知られていないものが多い。本書ではそれよりさらに優れたパブロフ戦略を紹介した上で、しかしもっとも優れた戦略は、もっとも単純でもある「黄金律」戦略、すなわち全ての場面で協力する戦略が、実はもっとも強力であると説いている。

渋滞学が気に入った人だったら絶対に気に入る。また、渋滞学をまだ読んでいない人も、本書から読み始めて、シミュレーションの面白さにぜひ触れてほしい。

「負けるが勝ち」に納得が行かないひとにも、納得しているけど人には説明できない人にもおすすめの一冊。私は負けました:)

Dan the Selfish Altruist