これは、伝わる。
「伝える」ではなく、「伝わる」。
本書「組織を強くする技術の伝え方」は、失敗学関連の書籍で有名な畑村洋太郎が、タイトルどおり技術の伝え方を説いた本である。
- 序章 「技術」とは何か
- 第1章 なぜ伝えることが必要か
- 第2章 伝えることの誤解
- 第3章 伝えるために大切なこと
- 第4章 伝える前に知っておくべきこと
- 第5章 効果的な伝え方・伝わり方
- 第6章 的確に伝える具体的手法
- 第7章 一度に伝える「共有知」
- 終章 技術の伝達と個人の成長
- 「技術を伝える」を巡るおまけの章
しかし、本書の要諦は、「技術は伝えられない」と喝破した事にある。
P.52技術というのは本来「伝える」ものではなく「伝わる」ものなのです。結果として相手の頭の中に伝えたい内容を出来させないと意味がないし、そうでなくては伝えたことにはなりません。この時に伝える側が最も力を注ぐべきことは、伝える側の立場で考えた「伝える方法」を充実させることではありません。本当に大切なのは、伝える相手の立場で考えた「伝わる状態」をいかにつくるかなのです。
本書のエッセンスは以上である。
だとするとそれを抜き出してしまった私は常識的な範囲での引用を逸脱した著作権侵害者ということになってしまう気すらするが、本書はまたエッセンスだけ抜き出しても「伝わらない」こともちゃんと指摘している。どころかエッセンスのみを見せて「伝えたつもり」になることを一冊まるごと使って戒めている。なので私としても安心してエッセンスを見出しにすることが出来る。本書はわずか189ページ。私は5分で読み終わったが、今後何度も読み返すことになるだろう。良著である。
引用が適切なことを示した上で(笑)、それでは「伝わる状態」を造るにはどうしたらよいか。これまた著者は実に簡潔にまとめてくれている。
p.76 他
- まず体験させろ
- はじめに全体を見せろ
- やらせたことの結果を必ず確認しろ
- 一度に全部伝える必要はない
- 個はそれぞれ違うことを認めろ
「他」と書いた。実はこの箇条書きはp.102にも登場する。200ページ弱の新書に二度である。それだけではなく、見ての通り引用部分に太字箇所が見られるが、これは私がそうしたのではなく、本書の表記がそうなっているのである。これが読み物であれば、これは本の内容を薄くしてしまうものだし、たとえプレゼンであってもしつこければ飽きが来てしまうが、本書は不思議とそれを感じない。こうしたプレゼン技法が実に快く感じるのは、著者の主張が首尾一貫しており、「一度に全部伝わらなくても充分伝わるように」著者が配慮した結果であるからだ。
極めつけなのが、図版。本書に出てくる図版というのは、誰にでも描けるような、本当に簡単な図版である。人はそれこそ頭に○を書いて手足に棒をつけたもので、サルにも描けるものだ。しかしそれが実に的確なポンチ絵になっている。さすがにこれは引用できないが、このポンチ絵を眺めるだけでも本書は買いである。
まじめな話、社内研修で下手なマニュアルを作るより、本書を人数分用意して、本書を軸にマニュアルそのものを作成した方が「伝わる」社内研修となるだろう。
何かを伝える必要があるすべての人に
Dan the Communicator
See Also:
かなんかで大槻教授の前で実演してもらいたいものです。