はっきり言って同意しかねる。

raurublockの日記 - 「ローマ人の物語」シリーズに欠けているもの
塩野七生の悪いところは「キャラ萌え」の癖があるところです。歴史をキャラクタとしての人物を通して見ることしかできない。「英雄(およびボケ為政者)によって歴史が作られてきた」史観ですね。まあ物語作家って職業の限界だと思う。

キャラ萌えだけの人が、わざわざ「インフラ」を主人公にした巻を書くだろうか。

何も「ローマ人の物語」が「科学的」というつもりはないし、一人の作家の限界だって当然ある。個人的に私が「ローマ人の物語」で一番残念だったのは、「なぜローマはキリスト教にハイジャックされたのか」ということがあまり納得できなかったこと。個人的にはローマを滅ぼした最重要要因がこれだと感じているので。

graph

それはそれで別の機会に改めて書く予定だが、ローマを滅ぼしたのが気候変動というのはかなり疑問なのである。確かに気候変動もまた帝国の危機の一つには違いないが、帝国がしっかりしていればそれも乗り切れたはずだ。実際ポンペイがヴェスヴィオの噴火に飲み込まれた際には少なからぬ気候変動があったはずなのだが、ローマの最盛期である五賢帝の時代はその後ではないか。

実際、右のグラフを見てもわかるとおり、帝政ローマ時代の気候は、小氷期よりは温暖だったようだ。小氷期は日本では江戸時代。この時代の北半球が寒冷だったのは有名な話で、日本でも何度も飢饉があった。浅間山や富士山の噴火もそれに追い打ちをかけただろう。しかし江戸時代は三世紀近く続いた。

むしろ環境に要因を求めるのであれば、森林伐採の方が影響が大きいような気がする。「ローマ人の物語」に登場する地図には、当時の海岸線に現代の海岸線が重ねられた地図がよく登場するが、海が後退した理由の一つは森林伐採だろう。森林が減れば、当時は燃料が減ったも同義なので、当然気候変動にも脆弱になる。

raurublockの日記 - 「ローマ人の物語」シリーズに欠けているもの
我々が未来をかけるべきは、物語じゃなくて、サイエンスですよ。

私もそう思うが、しかしここでいう「サイエンス」というのは本来の意味である「解明」であって、自然科学だけでは足りない。「ローマ人の物語」に話を戻せば、塩野七生はまだ自然科学に敬意を払っている方だと思う。実際同シリーズには何度も専門家の意見をあおいだという記載が登場する。「すべての道はローマに通ず」では特にそうである。彼女が本シリーズを通して伝えようとしたのが「なぜローマが滅んだか」ではなく、「なぜローマはあんなに長く続いたのか」であることを考えれば、エンジニアリングはスルーできない話題であり、実際彼女はスルーしていない。

私は「ローマ人の物語」を読んで、(いい意味で)大いに欲求不満になったし、「塩野七生は間違っている!実はこうだった」という作品があれば是非読んでみたいとも思うし、おそらくそれはもっと現代の科学を駆使したものになるだろうという感触も持っているが、この説はあまりにずさんで、「物語史観」の対抗馬としてはあまりにお粗末だと結論付けざるをえない。

Dan the Reader Thereof