この設問は、景気とは誰のものかという定義によって変わるでしょう。

宋 文洲の「言います、答えます」: ゼロ金利と景気と庶民の損得
ゼロ金利は本当に景気にプラスでしょうか。

もし景気が庶民のものだとしたら、プラスではなかったと結論付けざるを得ないようです。

ゼロ金利の目的は、(1)すでに借りている者の金利負担を減らし、(2)そして新規に借りようとするものの背中を押すことだったはずです。(1)に関してはゼロ金利は確実に福音でしたが、問題は(2)が機能していないことです。

庶民にとって最大の借金の機会は、なんといっても住宅購入でしょう。実際ゼロ金利を肯定的に捉える意見の筆頭は、「住宅ローンが組みやすくなった」というものです。ところが、このゼロ金利政策の間、住宅ローンの新規実行残高は減っているのです。

調べてみて改めて驚きましたが、ゼロ金利政策が開始された1999年には27.7兆円あった新規融資が、2004年には22.6兆円。率にして18%以上、額にして5兆円以上減っているのです。確かに1998年と1999年を比べてみると、25.9兆円が27.7兆円で1.8兆円増加しているのですが、翌2000年には25.6兆円で、元の水準より下がっているのです。少なくとも住宅ローンで見る限り、ゼロ金利の効果は1年しか持たなかったことになります。

しかし、東京に住んでいると、この事に気がつきにくい。私が驚いた理由がそこにあります。同じく不動産ジャパンのマンションの着工件数を見ると、確かにゼロ金利政策開始前より増えているのですから。それでは平均単価が下がったかというと、横ばいではあっても下がっているということはありません。

ここから導き出される結論は一つ。その分地方が地盤低下したのです。

ゼロ金利、長く続けば、刺激ゼロ (宋文洲の傍目八目):NBonline(日経ビジネス オンライン)
「ゼロ金利は景気を刺激する」と言いますが、「刺激」になるのは条件があります。一時的な措置なら刺激と言えますが、長期間に及ぶと、最初は刺激になっても、次第に刺激に感じなくなるはずです。辛さに弱い人が辛いモノを食べさせられると、最初は大変ですが、8年間も食べ続ければ次第に慣れて、ついにはその味が癖になってしまうでしょう。

それでも食べ続けているのであれば、まだ「激辛政策」を続ける意味もあるというものですが、見ての通り庶民が食べる量は年を追うごとに減っているのです。それでは法人が増えたかといえば、これも増えていない。特に大企業は市場から資金を直接調達できるので、銀行から借りるまでもないからです。

いや、一人だけいます。食べる量が増えた人が。厳密には人ではありません。いわずもがな、日本国政府です。これがどれだけ増えたかは、すでに過去何度も書いてきたので繰り返しませんが、結局ゼロ金利というのは国民のためではなく政府のためになされたものだというのだというのは間違いなさそうです。

田舎の金は都会へ。個人の金は法人へ。ゼロ金利が推し進めたのは結局のところ一極集中だったのです。

もっとも、資金の一極集中そのものは悪とは言い切れません。バラマキよりマシという意見も少なくありませんし、資金はまとまってこそ力を発揮するというのは事実です。

しかし、そもそも資金をまとめたのは、一体誰のためだったのでしょうか?

ゼロ金利の8年というのは、この質問に対する答を先延ばしにしてきた期間のように思えてなりません。

Dan the Taxpayer