私は絵心がないので、図を使わないで、かつ我が家の8歳と5歳の娘達にもわかるように説明してみる。

分裂勘違い君劇場 - 「他人の生産性が向上すると自分の給料も増えるのか?」を中学生でもわかるように図解する
これについて、中学生にもわかるように説明してみます。

Q:社員100名のある会社にナナ氏が入社しました。ナナ氏が入社してから、会社の売上げが倍になりました。ナナ氏の生産性はいくら?

単純に考えると、ナナ氏の生産性は他の社員の100倍ということになる。しかしそれって本当だろうか。

Q:その会社にいるまで、ナナ氏はニートでした。家ではパンツ一つ自分では洗いません。ナナ氏の生産性はいくら?

そう。ナナ氏の生産性は、ナナ氏がどこにいるかで変わってしまうのだ。パンツ一つ自分で洗えないナナ氏も、会社というシステムに組み込まれた途端、生産性が上がったりするのだ。他の社員がナナ氏が働けるような環境を用意してくれて、はじめてナナ氏に生産性が生じるのだ。

それでは、この向上した生産性を、社内で全部配分してしまうのが正解だろうか?次の設問を考えてみよう。

Q:この会社がカンボジアにあったとしたら、この会社の生産性は?

業態にもよると思うが、日本で「生産性が高い」会社のほとんどが、ゼロ生産になってしまうと思う。よく見ればわかるとおり、生産性が高い業態ほど、社会依存性が高い。良好な治安、安定した物流、廉価な通信、そしてそれらを担保する法....こういったものがなければ、生産性が高い人々は明日にもパンツ一枚洗えない穀潰しなのだ。

そう、実は会社というシステムもまた、社会というさらに大きなシステムのコンポーネントとなることで生産性を上げている。

だから、

池田信夫 blog 賃金格差の拡大が必要だ
要するに、山形氏が当然のものと思い込んでいる横並びの賃金決定が、一方では非正規労働者や失業者を増やし、他方ではプログラマの悲惨な生活をもたらしているのだ。日本経済が中国との競争で生き残るためには、むしろ各部門の限界生産性の差に対応して正社員の賃金格差がもっと拡大する必要がある。効率の高いIT部門の賃金を高めることによって人的資本の移行を促進し、TFPを引き上げることが「成長戦略」のポイントだ。その結果、所得が高くなる人は問題ではないので、生存最低限度より低くなる人にセーフティ・ネットを提供することが行政の仕事である。

という主張はまっとうに見えても、人体に向かって「脳細胞の生産性が高いから、筋細胞の取り分を減らすべきだ」と言っているような空しさがある。我々はシステムを組むことで生産性を上げてきたのに、個々のコンポーネントの生産性ばかり取りざたするのはそれこそ木を見て森を見ぬという話ではないのか?

とはいえ、簡単なのは定性的な説明までで、それを定量的にやろうとするととたんに難しなる。

Q: それでは、生産性が上がって増えたアガリを、どう分けるのがいいでしょう?

これは未だに最適解というのがわからない。とりあえずわかるのは、ナナ氏の取り分は、仮に社内で全部配分してしまうとして、ナナ氏入社前の社員取り分の2倍弱(2 * 100/101 = 他の社員の新しい取り分)から100倍の間にあるべきということだけだ。ナナ氏が全部もっていっては、他の社員が納得しない。ナナ氏の取り分が他の社員と同じでは今度はナナ氏が納得しない。どう配分するのが適切だろうか?

一つ考えられる方法は、とりあえずナナ氏に全部増収分を渡してから、今度はナナ氏が他の社員にボーナスを払うというものだろう。それをすごく間接的かつ強制的にやると累進課税ということになり、直接的かつ意図的にやると、トリクルダウン理論ということになる。

その逆に、一端ナナ氏も含めた社員全員に増収分を配布してから、残りの社員がナナ氏にボーナスを出すというやり方もある。が、こちらの方はあまり使われていない手法だ。おそらくその方が手間がかかるからだろう。しかし「システムで生産性を上げる」という実情から行けば、こちらの方が理想に近い。

他にも方法はいろいろ考えられるのだろうけど、忘れては行けないのは、生産性というのは一人で上げるものではないということ。「できる」と思い込んでいる人ほどこのことを忘れてしまいがちだけど、できる人はそれができる舞台があってはじめてできるのだから。

Dan the Lazy, Impatient, and Hubristic