というわけで尻馬の二乗(タイトルも)。

プログラマーと労働と原価管理 - FIFTH EDITION
アスリートや、作家、歌手のように、自分の体が、一種の工場のようなものである世界では、出来高賃金のケースが多いが、プログラマーだけが、そういった世界ではないのは、少しばかり不思議なものがある。

この理由を考えてみた。

結論から言うと、「まだ職業として確立された期間が短いから」ということになる。

プログラマーという職種は、まだ成立しうるようになってからまだ60年ちょっとしか経っていないし、プロ^2グラマーともなるとその半分かもしれない。これに対して、芸人にはすでに数千年の歴史があるし、漫画家だって少なく見積もっても江戸時代からある(i.e. 葛飾北斎)。だから「漫画家の人生ってこんな感じ」というイメージも、漫画家も「非」漫画家もすでに持っている。

プログラマーは、まだそこまで行っていない。プログラマーさえ、そのイメージをまだ確立していない。今の自分、せいぜい5年後程度の自分となるとある程度おぼろげな絵も描けるが、10年後となると霧の中だ。黎明期のプログラマーの中には、すでに天寿を全うして鬼籍に入った人もいるけれども(i.e. グレース・ホッパー)、こういった人たちは「巨匠」すぎて、アイドルにはなれてもロールモデルにはなりがたい。

そもそも、プログラミングというのはハードウェアのおまけだった。初期のプログラマーに女性が多かった理由もこれだと思う(女性のみなさんごめんなさい)。ハードウェアアーキテクトという「メイン」の仕事はあまりさせて貰えなかったのだ。そのうちソフトウェアこそコンピューティングの主役で、ハードウェアは器にすぎない(ハード屋さんごめんなさい)ことに皆気づき出したが、それでもまだプロ^プログラマーの成立にはしばらく時間が必要だった。まだ汎用機しかなかった頃には、ソフトウェアが単体で売れるものだという実績がなかったのだ。

そうなり出したのは私が物心つく前なので断定は出来ないのだけど、IBM System/360が出てしばらくしてからだと思う。これが出た事で、コンピューターというのはソフトウェアを入れ替えれば何にでも化けるということがビジネスの世界でも知れ渡るようになり、そうなるとソフトウェアの開発が独自の仕事として成り立つ余地が出てくる。

それでもまだコンピューターは高価な代物で、乗り物に例えるなら船とか旅客機に相当する。運転手に憧れても、具体的な運転ともなると憶測するしかない。そして本当に運転手になるには、それを運用している会社に入って訓練を受けるしかなかったのだ。

パソコンの登場で、これが一変する。コンピューターは自家用車になったのだ。ただし、それはハードウェアであって、ソフトウェアの方はまだしばらく時間がかかる。「自家用コンピューター、すごい!でもそれ何に使うの?」実際に使えた者は少なかった。たいていはゲームマシンとなって、飽きたら埃をかぶる運命になった。しかしそれらに触った何名かは、確実にそれがただのゲームマシン(ゲーム業界のみなさんすみません)ではないことに気がついた。

実は私(1969年生まれ)の世代の前後がこれに当たる。「ハッカー」のカンブリア爆発が起きたのだ。ソフトウェア業界の紳士録は、このあたりから急に厚みを増す。プロ^2プログラマーが、これでやっと成立することになったのだ。彼らには子供のころから「ソフトウェア次第で何にでも化ける機械がある」ことが当然だったのだ。江戸時代に多色印刷があるのが当たり前だったのと同様に。

そんな、「典型的なプロ^2グラマーがいる」世代は、未だ現役まっさかり。ライフサイクルの折り返し点にやっとさしかかったあたりだ。まだまだ仕事そのものは楽しいし、また自分と家族の面倒を見るので精一杯の年頃だ。「業界かくあるべき」というには、ほとんどの人は若すぎるのである。

とはいえ、彼らも確実に年を取る。幼かった子供が成人となり、そしてママやパパだった第一線プログラマー達も、ババジジとなっていくのである。Larry Wallは去年祖父となったのだが、個人的には結構感慨深いことだった。あくまで第一級の人材ではあるが、それでもプログラマーとして一生を終えるとはどういうことなのか、やっとおぼろげに見えてきたところなのだ。

プログラマーは漫画家化、タレント化が進み、リーマンプログラマーこそ「ふつうでないプログラマー」になっていくと私はおぼろげに確信している。すでに「脱サラ」したプログラマーも少なくない。私自身もそうだ、というより私に関しては「脱」するまでもなかった。

ただ、気になるのは、「タレント事務所」に相当する存在がまだないこと。トイレ掃除から確定申告まで自分でこなせるプログラマーはやはりごく一部だし、それが難しい故に「しかたなく」企業の禄を食んでいるプログラマーも少なくない。「リーマンは窮屈だ。でも自営は怖い」というプログラマーの受け皿がまだないのだ。

....って書いていて、なんだか自分で作りたくなってきてしまった。どーしよーかなーぁー。

Dan the Life Programmer