タイトルは少しミスリーディング。

なぜなら、本書は「燃料電池と水素エネルギー」だけを書いた本ではないのだから。

本書「燃料電池と水素エネルギー 次世代エネルギーの本命に迫る」は、エネルギーの現在、過去、そして未来を、水素エネルギーを軸に解説したもの。目次を見てわかるとおり本題である燃料電池と水素エネルギーの分量は、本書の1/3程度だろうか。

目次 -- SI新書『燃料電池と水素エネルギー 次世代エネルギーの本命に迫る』概要 (サイエンス・アイ新書Web)より
  • 第1章 燃料電池とは何か

    近ごろ話題の「燃料電池」とは何だろう / 燃料電池の仕組みを調べる / 偶然の発見 / 燃料電池の試作 / 効率の高い発電技術 / 燃料電池の種類 / 燃料電池の構成部品 / 固体高分子形燃料電池の応用 / コラム●電気うなぎ

  • 第2章 石油の時代から新エネルギーへ

    エネルギー問題が浮上する21世紀 / キング・ハバートの針 / 米国のサウジアラビア産石油への傾斜 / 地球温暖化「プラス0.6℃」の意味 / 新エネルギーは高効率化技術が基本 / 自然エネルギーはエネルギー密度が小さすぎる? / 新エネルギーの研究開発 / 新エネルギーを推進するグリーン電力とRPS法 / 水素エネルギーとはどういうものか / エネルギーを運ぶ方法 / エネルギーのうちの水素の割合

  • 第3章 地球は熱くなる

    シュワルツェネッガー知事の翻意 / 何もしないツケは重い スターン・レビューの衝撃 / キーリング博士の二酸化炭素濃度測定 / 地球温暖化の傾向 / 日本における地球温暖化の影響 / 生物への影響 / 地球温暖化に対する対策 / ゴア元副大統領の「不都合な真実」 / 各国の温暖化対策 / 日本政府の対策 / 排出権取引とは何か / 二酸化炭素を固定化する技術

  • 第4章 燃料電池のブレイクスルー

    アポロ計画と燃料電池 / バラード社が生み出した画期的な小型化技術 / ダイムラークライスラーの燃料電池車 / GM(ゼネラルモーターズ)の燃料電池車 / トヨタの燃料電池車 / ホンダの燃料電池車 / 日産の燃料電池車 / バラード社の燃料電池の最近の発展 / 自動車技術の比較 / 自動車の走行エネルギー / 電気自動車 / ハイブリッドカー / プラグイン・ハイブリッド / ソーラーアシスト・カー / 燃料電池を利用する / コラム●熱機関と燃料電池 / コラム●自動車の走行時の方程式 / コラム●水素か電気かという論争

  • 第5章 技術革新とコストダウンの未来予測

    新製品の普及を示すロジスティック曲線 / 新製品が普及するための5つの条件 / コスト低下を学習曲線で考える / 学習曲線の原理とは / 太陽電池の例を見ると / 燃料電池への適用 / 固定高分子形燃料電池の量産コスト / 学習曲線による燃料電池車のコストの計算 / 水素貯蔵の3つの方法 / 電気と熱を利用する住宅用燃料電池 / 二酸化炭素の排出量の論争 / 熱を利用する技術 / コージェネレーションの学習曲線によるコスト分析 / 水素をどこから確保するのか / 水素インフラを整備するコスト / 日本における分析 / 工場副生ガスから水素を得る / コラム●エネルギーの単位について / コラム●ヒートポンプとは

  • 第6章水素エネルギー社会の到来

    水素エネルギー社会の規模 / エネルギー狩猟型から耕作型文明へ / 10人の奴隷がいる

404 Blog Not Found:書評 - 進化する電池のしくみ
スタイルとしては、特定分野の最先端の著者が、その分野を裾野から解説するというもの。ブルーバックスであれば、裾野部分と頂上部分は別の本にしていただろう。実際ブルーバックスにも「新しい電池の科学」があるが、こちらは化学電池に重きをおいた「裾野」の本である。

本書のスタイルもこれに準じる。良著である。

鳥瞰的視点も虫瞰的視点もほどよい分量だ。主題である燃料電池と水素エネルギーの利点だけではなく欠点を書いてあるのもよい。著者はあくまでも水素エネルギーを「数あるエネルギーの一つ」として捉えていて、他のエネルギーに関しても丁寧に解説している。

しかし、これは主題をおろそかにしているわけではない。特に燃料電池に関しては、一般的な解説にとどまらず、バラード社の技術のキモまで紹介している。本書を読むまで、私もバラード社の技術のどこが特別だったのかは知らなかった。

このような良著なのだが、Amazonの順位は本entry執筆現在で100,000位以下と今イチぱっとしない。本書のタイトルが専門的過ぎたのだろうか。たしかに本書のタイトルは「エネルギーの未来 - 燃料電池と水素エネルギーを軸に」とかの方が適切に思える。

エネルギーを必要とする全ての人に一読の価値あり。

Dan the Book Guzzler