まずはダイヤモンド社に献本御礼。

その上で恐縮なのだが、本entryではもう一冊紹介する。そうしなければならない理由があるからだ。

本書「投資信託にだまされるな!」は、投資信託をDISった本....ではなく、副題にあるとおり「本当に正しい投信の使い方」-- 少なくとも著者の定義による -- を解いた本。

目次 - http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=4-478-00024-3より抜粋。
  • はじめに
  • 第1章 こんな投信は買ってはいけない
  • 第2章 これだけ知っておけば金融機関にだまされない!
  • 第3章 では、どんな投信を買えばいいのか?
  • 第4章 おすすめの投信と販売会社
  • 第5章 世代別に見る、投資信託の活用法
  • 付録
  • おわりに

本書の一番の特徴は、ダミー広告にある。本書にはいかにも銀行や証券会社の窓口においてあったり、郵便受けの中に入っているダイレクトメールで見かけたりしそうな「ニセ」広告が登場する。このニセ広告の問題を調べることで、読者は投資信託とはなんなのか、うまそうな話にはどんな訳があるのかを学んで行くという寸法である。

大変面白い。のだが、この手法、実は先達がすでにある。こちらである。

本書「金融広告を読め」もまた、ダミー広告を通じて金融リテラシーを高めようという本である。そしてその点においては、こちらの方が質量ともに圧倒的だ。「投資信託にだまされるな!」の160ページに大して、「金融広告を読め」は501ページ。扱っている金融商品も投資信託のみならず、預金、株式、債券、デリバティブから不動産投資に至るまでなんでもござれ。しかも新書ということもあって1200円。「投資信託にだまされるな!」の1500円と比較すると、ページ数で3倍強なのに、値段は2割安い。

それでは「金融広告を読め」の方が買いか、というと、そう言い切れないところが難しい。

まず、情報量。「金融広告を読め」の方がダミー広告の質量が圧倒的に多いのだが、この量の多さは、正直言って引く。読んでなるほど、となる前に「おなかいっぱい」になってしまう。売り手側の金融業者と知恵比べをしたい人なら本書だが、「初心者です。投資信託をはじめてみたいのですが、業者にぼられないか心配です」という人は本書の厚さを見ただけで「もういいや」ということになってしまうだろう。

次に金融商品の範囲。「金融広告を読め」が金融商品なんでもござれなのに対し、「投資信託にだまされるな!」の方は、投資信託に的を絞っている。とりあえず投資信託って何なのか、どんな問題があるのか、そして何がいいのかを知りたい人は、まず本書を読んでおくべきだろう。「金融広告を読め」に「はい」と答えるのはその後でいい。Perlねたで恐縮だが、「金融広告を読め」が「ラクダ本」なら、本書は「リャマ本」に相当するといえばわかりやすい。

「時は金なり」ということを考えると、これらの要素は決して無視できない。私のように本を読むことそのものが楽しい者にとって、「金融広告を読め」の網羅度の高さと情報密度の濃さは福音だが、あくまで本を情報源として読む、いや頼る人にとって頼もしいのは網羅度でも情報密度でもない。今自分が必要な情報が、自分が持ち合わせている時と金で手に入るか、すなわち消化のよさなのである。

両方読めればそれが理想。もう投資信託だけではなく金融広告にもだまされることはなくなるだろう。もっとも、そのことは市場にしてやられることまでなくなることを全く保証しないのだけれども。

それにつけても、金融啓蒙本というのは、結局のところ月並みな結論しか出ないのだろうか。アクティブよりパッシブ、おなじパッシブでも手数料が安い窓口から、ETFならなおよし....扱うものが金である以上、それはそれで仕方がないことかも知れない。

しかし一ハッカーとして思わざるを得ないのは、月並みにしてしまうには投資信託というのはあまりに月並みでないアイディアなのではないか、ということ。私は実はこの投資信託を、株式会社と同じ位すごい発明だと思っている。束ねることで一本一本よりも大きな力を発揮するという点において、投資信託は株式会社に通じる。それどころか、株式会社の株を買うというのは、その会社という投資信託を買う行為と同じとみなすことすら出来る。その考えを拡げて行けば、実は全ての投資は投資信託の一種とみなせる。現金そのものですら、その通貨の発行体である国家に投資信託しているのと同じである。一円はニッポン・ソブリン・インカム一口、というわけだ。

そうやって考えて行くと、投資信託というのはただ買い手でいるのもつまらないような気がするのだ。これってハックの対象にならないか。目論見書がソースコードそのものという投資信託があったって面白い。証券を売買するロボット、証券ボットはすでに存在するし、実はプロも使っているが(実はPerlは彼らの間にも大人気なのである)、コードそのものまで公開されているものはまだない。少なくとも私は見たことがない。ビジネスにしたい誘惑を感じないといえば、嘘になる。

「投資信託にだまされるな!」と「金融広告を読め」の双方に共通して残念なのは、「現在はこうなっている」「ここに気をつけろ」という、買い手の現在にメッセージはあっても、「こういう金融商品があったらいいのに」だとか「こういう風に広告してくれたらいいのに」とかという、売り手の将来に対するメッセージに欠けることである。役には立つが面白みには欠ける。

「命の次に大切なもの」を扱っている以上、それはそれで仕方がないのかも知れない。しかし、我々はなぜ金を発明し、社会を発明し、そして投資信託を発明したのだろうか。

未来のため、ではないのか。

いやいや、そこは好意的に捉えよう。未来は読者のためにとっといてある、と。現在を固める、という点であれば両書ともなかなかの良著なのだし。ただし読む順番はお間違えなく、出版順と逆に、「投資信託にだまされるな!」が先で、「金融広告を読め」が後。併せても3000円しない。これくらいなら「リテラシー手数料」としても充分低いのではないか。

Dan the Hacker