今までの「岡嶋」本の中で、ぶっちぎりで最も完成度が低い本。
それゆえに、最も面白い本となっている。
本書「iPhone 衝撃のビジネスモデル」は、iPhoneを軸に、2007年現在のネットをめぐる状況を、岡嶋裕史が考察した本。そう。考察した本である。解説した本ではなく。
目次 - 光文社発行の書籍より抜粋今までの「岡嶋」本といえば、解説本であった。「郵便と糸電話でわかる インターネットのしくみ」にせよ、「セキュリティはなぜ破られるのか」にせよ、プロにとっては当たり前の知識を、いかにわかりやすく解説するかということにかけて、現在岡嶋裕史は日本でもトップクラスの技量を持っている。それがどれくらいすごいかというと、あまりに分かりやす過ぎて、分かりやすくする技術に著者がどれほど注力しているか、気をつけていないと見えないほどだ。解説書のUIにかけて、著者ほど洗練された技術の持ち主は見当たらない。岡嶋裕史の凄さは、それが全く凄く見えないところにある。いや、あった。
その岡嶋がiPhoneを見たとき、これは何か言わねばと思ったことは想像に難しくない。本書は著者がiPhoneを見て感じた事を、現状を踏まえた上でストレートに、分かりやすくする技術それほど適用しないで書いている。本書では文体にしてからが解説書の「ですます調」ではなく論文の「である調」であり、用語解説もほとんどなしにユーザエクスペリエンスだのユビキタスネットワークなどといった言葉が生のまま飛び交う。今までの岡嶋本では、こういうbuzzwordsを生のまま使う事は避けていた。なぜ避けなかったかといったら、解説する暇もないほど岡嶋がiPhoneに関して一言行っておきたかったからに違いない。
こういう何かに突き動かされて書いたものというのは、本でもblogでも、完成度は低い代わりに面白い。そこにはパッケージされるまえの生のプリント基板に似た美しさがある。本書はそんな本である。
しかし、本書を本として出す所に、著者の老獪さも垣間見える。本書の各項目をblogで書けば、どれもはてブ三桁の大人気entryとなるのは間違いない。梅田望夫なら「書かずにいられない」ことは迷わずblogに書くだろう。しかし彼はそうするぐらいなら「生乾き」の原稿を本にする方を選ぶ。そこには、
p.164Web2.0的なサービス、技術はある。だが、Web2.0的な収益モデルはない
という著者の冷徹な現状認識がある。今のところ、blogでは何万アクセスあろうが何十万アクセスあろうが、書き手にはビタ一文落ちないのだから。そんな岡嶋が本ではなくblogでこういう文章を発表したら、その時こそ本当のWeb 2.0到来なのかな、と思わずにもいられない。
しかし、生乾きの原稿でこのクォリティというのは大したものだと思う。何より強いのは、岡嶋は技術を「手でも」わかっているということ。技術を頭でしか理解していないと、どうしても重大な事実誤認や思わぬ錯誤をしてしまうのだが、およそ岡嶋の文にはそれがない。本書のオビをもじれば、
梅田がつき佐々木がこねしウェブ論本座して食らうは岡嶋か
といったところか。少なくとも、この両者よりも岡嶋が技術というものに通じていることは、両人とも納得していただけると思う。
だから余計思わずにいられない。なぜこの人はWebに文章を上げないのか、と。三者の中では最も若い(そう、私より若い)岡嶋が、この点にかけては一番年寄りじみて見える。筋違いな指摘かも知れないが、これだけの論者が本にしか文章を上げないことが、私には「ずるく」感じるのである。
それでも、岡嶋がこういった本も書けるし書くのだというのは実に新鮮。blogと違ってタダでは読めないが、税込み735円の価値は確実にある。
Dan the Blogger
ちょっとききかじった話しなんだけど、
台数ベースでソニエリのケータイウォークマンが、
日本以外でバカ売れらしい、
iphoneはおろかipodよりも売れているときいた、
コレって事実なのかな...