ブルーバックスの面目躍如。
掛け値なしに面白い。
本書、「新しい薬をどう創るか」は、文字通り創薬の本。薬学は医学に比べて目立たないが、総合芸術という意味では医学よりも凄い世界でもある。医者に比べて薬学者というのはドラマになりにくいかも知れないが、書物としてならこちらの方が面白いかもしれない。
目次 - BOOK倶楽部より。
- 第1章 薬創りは『健康と病気の違いを知ること』から始まる
- 第2章 薬を合成する 〜薬創りに王道なし、薬の創造から製造まで〜
- 第3章 薬のターゲットタンパク質の構造を決定する
- 第4章 薬をデザインする 〜勘と経験からコンピュータナビゲーションへ〜
- 第5章 薬がなぜ効くかを調べる
- 第6章 抗ウイルス剤の開発
- 第7章 日本発 世界が驚いたアルツハイマー病治療薬の開発
- 第8章 生体防御の仕組みから抗菌剤を創る 〜平成版ガマの油の話〜
- 第9章 体の中の薬の動きを自由にあやつる
- 第10章 ゲノムで変わる医療、創薬
医者が医療の最前線を担う兵士としたら、創薬は兵器開発に相当する。オビに「新薬は、何万人もの医師に匹敵する!」とあるが、これは本当のことだ。かつてまだガン告知が今ほどなされなかった時代、胃がんの切除は胃潰瘍と説明されていたそうだが、H2ブロッカーのおかげで胃潰瘍で胃切除というケースは「ありえない」ほどになった。一つの薬は、外科の適用まで変えてしまうこともあるのだ。
「何万人もの医師に匹敵」するのは、臨床における効用だけではない。売上げもそうである。薬の売上げベスト1のアトルバスタチンの売上げは、年間1兆円。なんと薬一つでGoogle一つなのである。
技術としてもビジネスとしても、実に壮大で広大な創薬の世界なのだが、一般への認知度は、ITに比べると数段下がるのは、その過程が一般公開されることが少なかったこともあるのだろう。一般人が新薬に触れるのは、それが薬になってからで、しかも薬になってからもそのコストは保険制度にくるまれて直接目にする機会はほとんどない。本書のような一般啓蒙書が待たれた次第でもある。
本書のもう一つの特徴は、いわゆる単著ではなく、第一線の研究者たち複数による共著であるということ。自然科学系の新書はかつてはブルーバックスの独擅場であったが、最近はそうとも言えなくなってきている。このことは今までも何度か書いてきたが、しかしよく見るとブルーバックス以外のほとんどが単著という形式を取っている。いきおいすでに定評のあるサイエンスライターの手によるものか、すでに有名になっている科学者の手によるものかということなるのだが、実際の第一線の科学者たちのほとんどは、単著を書くほど暇ではない。しかし一冊は無理でも、一章、いや一項であればなんとかなる。そうして文章を集めて出来たのが本書であり、そして本書をはじめとする共著形式の一般啓蒙書に関しては、ブルーバックスにまだ一日の長があるようだ。
実はこの創薬の世界、ITとも相性がいい、というよりITの最大の顧客の一つでもある。バイオインフォマティックスという合弁のおかげで、製薬会社の外にまで今やその世界は広がっている。今や創薬は薬学者の専売特許ではなく、総合芸術となりつつある今、薬だけではなく創薬に関するリテラシーも一般人に要求されるようになってきているように思う。その創薬を俯瞰するのに、本書は格好の一冊なのである。
Dan the Layman

いつもお世話になっております。
この二つ、夕食後私も読んで気がついて直したのですが、
ちょっと錯綜してしまいましたね。
Dan the Man to Err