すげええぇぇ。
いわば本気で、本だけをたよりに自転車の乗り方を伝授しようとしている本。
本書「図解 つくる電子回路」で作る電子回路は、たった一種類。無安定マルチバイブレーター。ハードウェアがからっきしな私でも、回路図を思い出せるというほどメイジャーな回路。作るだけなら小学生でもばっちし。これをブルーバックスで200ページ使ってやる、と書くと、怒る人も出てきそうだ。でも、怒るのは本書読んでからでも遅くない。
ちなみにバイブレーターといっても、こういうのとは違うので誤解なきよう。そういえばstripperも電子工作で出てくる用語なのだが、カタカナにしたとたん赤面しそうになるのはなぜだろう。やっぱ日本語ってえろい?
本書が「小学生のための電子工作」でないのは、きちんと無安定マルチバイブレーターが振動する仕組みを説明し、回路図から各部品の諸元を割り出すことからも分かる。これが小学生だと作って動かすことに主眼がおかれるが、こちらは「きちんと理解した上で確実に動くものを作れるようにする」というところが大人向けだ。
それでも、マルチバイブレーター一つに一章でなくて一冊。なぜそれだけの分量だったかといえば、「本だけをたよりにどこまで手で習うしかないことを伝えられるか」の限界に挑んでいるから。だから、本書は電子工作に全く縁がない人でも、なにかを切実に伝えなければならないという人のための格好の教科書にもなる。
「ぎょえぇ」と思わずうなってしまったのは、本書は文章だけではなくイラストまで著者本人が描き降ろしていること。このイラストが抜群なんである。ポンチ絵というレベルではなく、イラストレーターとしても食えるよこれはという出来。しかも著者は左利きなのに、右利き向けの絵をちゃんとスケッチしてから描いている。もう出るのはためいきばかり。
無安定マルチバイブレーターを選んだというのも、著者の抜群のセンス。これ、作ったことあることも少なくないと思うのだけど、一つ一つ手順を踏めば、不器用な人手も確実に動くものが作れる。自分で何かを作ったという手応えが、確実に得られるのだ。それでいて、抵抗、キャパシター、トランジスターといった電子工作でおなじみの固定部品は一通り入っている。でも、個人的にはAMラジオにしてほしかったなあ。これだとさらにコイルも加わるし、一応実生活でも使えるし。
ほんと、本を読んでいるというより、著者が読者に手を添えて教えてくれているような気分になる。ガキのころにこういう本があったらなあ。もう一度ハンダごてを握りたくなった。
Dan, too Clumsy a Man for Hardware
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