GTDの真打ち登場。
本書「「計画力」を強くする」は、Getting Things Done を本当に実践してきた業界である土木業界に、計画の技術を教えて来た著者が、Getting Things Done という言葉が GTD と略記され、経験を「技下」するのが流行となった現在、あらためて「計画力」とはなにか、そしてなぜそれが大事なのかを改めて著した本。
目次 - BOOK倶楽部を再編集- 失敗する理由1 計画の目的・目標がはっきりしていない
- 失敗する理由2 頭の中だけで組み立てた計画になっている
- 失敗する理由3 状況判断を誤っている
- 失敗する理由4 目先の問題解決を積み重ねただけの計画になっている
- 失敗する理由5 複数の計画案の中から選び抜かれていない
- 失敗する理由6 計画通りに実行する熱意に欠けている
- 失敗する理由7 計画実行の勘所をはずしている
- 失敗する理由8 "終わり"からの逆算ができていない
- 失敗する理由9 計画の適切なフォローアップができていない
この目次を見て、「それってどこの百式?」「GTDがらみはもうおなかいっぱい」という人もいるだろう。確かに。本書に書かれた事は、数多のGTD本やGTDがらみのblogで紹介されているものばかりだ。しかし、実はこちらこそオリジナルで、残りは剽窃とまでは言えないが再発見なのである。なんといっても、本書の著者は「計画の科学」の著者でもあるのだ。
この1965年の計画の科学は、「経験を科学的に技化するのは不可能じゃない」ということを、日本で初めて紹介した本といっていい。本書で紹介されたPERTもCPMも、今や計画技術の古典といっていい。同書は見てのとおり今でも新品で買えるが、これは同書が紹介した知見がいかに本質に迫っているかの傍証でもある。
「『計画力』を強くする」は、「計画の科学」より悪くいえばずっと抽象的であり、よく言えばずっと平易である。なぜなら、本書はなぜ計画の科学が必要かを解いた、GTDの門前パンフレットだからだ。「計画の科学」は、門の中に入った人たちのものである。
その内容は、前述のとおり、他のGTD本のマントラに酷似しているのは確かだ。しかしマントラを唱えるだけではなく身につけるためには、それを裏打ちする、「体に訴える」経験が著者に必要であり、そして「体に訴える」言葉を著者は書き連ねる必要がある。本書が他のGTD本と違うのは、目次には反映されないこれらの経験に裏打ちされた言葉だ。同じ組み手でも、著者のそれは他のよりずっしりと感じられるのだ。
IT業界と建築業界の両方の世界を覗いた事がある人には、そのことは当然かも知れない。計画の達成と未達の重さが、この二つではまるで違うのだ。契約の形態一つとってもそうである。IT業界では、委託契約が、建築業界では請負契約が主に用いられる。この二つの違いを明白に知っている人はどれくらいいらっしゃるだろう。この二つは法的にも違う。従業員はとにかく、経営者がこの二つの違いを知らないのは致命的となりうる。私は自営をはじめてからこのことをいろいろな人に教わったのだが、それまで知らなかったことに背筋が凍る思いをしたものである。
平たく言うと、委託はベストエフォートなのに対し、請負は完了保証。納期が遅れたら待っているのは罰金だ。もう計画というものの持っている重みが全然違うのである。
「しかしITは未知のものを扱うケースが多いのだからそうなっていて当然」という意見もあるだろう。しかしそれを言えば、土木建築も扱うのは一過性のものばかり、ある土地でうまく行った手法が別の土地でうまくいく保証はまるでない。未開の地を開拓するという点に関しては、むしろ共通点こそ目立つ。いや、「未開の地を開拓」という言葉そのものが、本来土木建築のものである。この業界からIT業界が学ぶべき点はまだまだ多い。かの業界の「経験工学者」たちは、blogosphereのGTDというかけ声を「オレタチの40年遅れですか」という気持ちで聞いていらっしゃるかも知れない。
しかし、GTD本と本書の内容が一致しているということは、GTDの正しさの証しであるとも捉えられる。老舗業界の常識が、新興業界に再発見されることは、なにもGTDに限った事ではない。もっともその際に先人の功績を見落して、それがあたかも新発見のように喧伝されるのもまたGTDに限った事でもないのだけれども。
私自身は、イキアタリバッタリストであるが故、「意識的GTD」は実は苦手だ。それでなんで今までなんとかなってきたのか実は自分でも不思議だったのだが、本書を読んでちょっぴり納得したと同時に、自分は今までなんと遠回りしてきたのだろうとちょっぴり恥ずかしい気持ちにもなった。無知の中であがいてそれなりに得た結果が、先人の知恵と一致していた場合、あなたはがっかりするだろうか、それとも安心するだろうか。
計画的な人も無計画な人も、GTDが好きな人も嫌いな人も、必ず得るところがある一冊。
Dan the Procrastinator
まあこの本を買うくらいなので、私もドロナワ式人間なのですが・・・