このギーク度120%のタイトルにだまされてはいけない。

なぜなら、本書はギークとつきあう必要のあるすべてのスーツ必携の一冊なのだから。

本書「The Art of UNIX Program」は、「七夕の国」で言う所の「窓が開きかつ手の届く」者である Eric S. Raymond (ESR)が、「UNIXプログラミングとは何か」ではなく、「なぜUNIXなのか」を説いた本である。

序章
本書は「how-to本」ではなく「why-to本」なのである。
目次
  • 序章
  • 第1部 コンテキスト
    • 第1章 思想:大切なのは思想だ
    • 第2章 歴史:2つの文化の歴史
    • 第3章 対比:Unix思想と他のOS
  • 第2部 設計
    • 第4章 モジュール化:簡潔に、単純に
    • 第5章 テキスト形式:優れたプロトコルが優れた実践を生む
    • 第6章 透明性:光あれ
    • 第7章 マルチプログラミング:プロセスを機能別に分割する
    • 第8章 ミニ言語:歌いだす記法を探す
    • 第9章 コード生成:高い水準で規定する
    • 第10章 設定:気持ちよくスタートしよう
    • 第11章 ユーザーインターフェース:Unixに環境におけるユーザーインターフェース設計
    • 第12章 最適化
    • 第13章 複雑さ:できる限り単純に、それよりも単純でなく
  • 第3部 実装
    • 第14章 言語:CすべきかCせざるべきか?
    • 第15章 ツール:開発の戦略
    • 第16章 再利用:やり直しを避けること
  • 第4部 コミュニティ
    • 第17章 移植性:ソフトウェアの移植性と標準の維持
    • 第18章 ドキュメント:Web中心の世界でコードの説明をする
    • 第19章 オープンソース:新しいUnixコミュニティでのプログラミング
    • 第20章 未来:危険と可能性
  • 付録A 略語集
  • 付録B 参考文献
  • 付録C 寄稿者紹介
  • 付録D 不宇先生のUnix公案
  • 索引

冒頭で「すべてのスーツ必携」と書いたが、自分たちが何者であるかを知るという点において、本書はギーク必携の書でもある。自分のことをうまく説明できなくて、もどかしくてくやしい思いをしたことがないギークがいるのだろうか。そんな君にとって、本書は最高の矛にして盾となってくれるはずだ。

今最先端を走っているギークには、本書は少し古く感じるかも知れない。例えば本書にはPythonは出てくるがRubyは出て来ない。しかし、自分のルーツを知っておくことは、決して遠回りにはならない。急がば回れ、である。

23日のウィキノミクス緊急大読書会に参加された方は、本書からさらに多くのものを得られるだろう。本書はウィキノミクス以上の大著なのだが、技術者が著したこともあって、全部通読しなくてもいいような構成になっている。とりあえず序章と第1部、そして最後の付録Dを読んでおけば、読書会をやっても話についてこれるだろう。

おしらむべくは、その判型と価格。「オライリー判型」で値段は税込みで6,090円。買うのに躊躇する金額だ。しかし都内での飲み会一回分でもある。夕食を一回抜くだけの価値はあるし、すぐに腐る本でもない。原著は2004年の刊行だが、三年後の今も価値は少しも減っていないどころかむしろ増している。もし本書を読んだ上でそれだけの価値がないという人は、是非そう申し出て欲しい。もし本entry経由で購入されたのであれば、私のアフィリエイト代金はお返しする。

本屋さんにお願い。本書はその判型から技術書の棚に置かれるかと思いますが、もっとも適切なのは、「ウェブ進化論」や「ソーシャル・ウェブ入門」のとなりに平積み、です。

p.517

20.6 信じる理由

 Unixの未来には大きな問題がいくつも待ち構えている。本当に私たちはUnixに別の道を歩ませたいのだろうか。
30年以上にも渡って、私たちは課題を乗り越えてきた。私たちはソフトウェア工学のもっとも優れた実践を開拓し、今日のインターネットとWebを作った。私たちは今まで存在したことのあるソフトウェアシステムのなかで、もっとも大きく、もっとも複雑で、もっとも信頼性の高いものを作り上げた。私たちは、IBM独占よりも長寿を保ち、今はMicrosoft独占に立ち向かおうとしていて、Microsoftを深く恐れさせるだけの健闘を見せている。
 決して、すべてが大勝利だったというわけではない。1980年代には、Unixのプロプライエタリ化に手を貸して自らの首を絞めそうになった。私たちはローエンドの非技術系のエンドユーザーをあまりに長い間無視し続けたために、Microsoftがソフトウェアの品質の標準をひどく下げる余地を残した。知的な観察者たちは、私たちの技術、コミュニティ、価値はもう終わりだと何度も何度も宣言した。
 しかし、私たちはいつも蘇った。私たちは過ちを犯すが、過ちから学ぶのである。私たちは世代を超えて私たちの文化を伝えていった。私たちは、初期の大学ハッカーやARPANET実験、マイクロコンピュータの熱烈な支持者たち、その他さまざまな文化の最良の成果を吸収した。オープンソース運動は、私たちの初期の時代と活力と理想主義を復活させ、今日の私たちはいまだかつてないほど強力で、多くの人に支えられている。
 今では、Unixハッカーの負けに賭けると、短期的には賢く、長期的には愚かだという結果になってきた。私たちは克服できる。そのつもりになれば。

振り返ると、私は信じるという言葉の意味を、UNIXに教わったように思う。この体験を、一人でも多くの人が共有できることを願わずにはいられない。

最後になりましたが、献本してくださったアスキー編集部に感謝。本entryで少しは本書を必要とする人々に本書の存在が伝わることを祈ります。

Dan the Artist Called Open Source Programmer