「弾さん、どうやったらそんなに速く本を読めるんですか」という質問は、本blogのFAQとなった感があります。

はじめに

まずは、その質問にはこの質問で答えさせていただきます。

あなたは、どうやって歩けるようになりましたか? (ただし、当然ながら生まれつき歩行障碍のある方は除きます)

実のところ、私は物心ついた時には、すでに一日10冊以上読むようになっていました。といっても私は物心がつくのがやたら遅くて、11歳ごろより前の記憶がたぐれないのですが。そういうと「また自慢を」という人もいるでしょうが、ピアノを弾ける大人は、たいていはそれくらいの年には譜面を読んで両手で弾けるようになっていたはずです。幼少の頃から毎日欠かさずやっている人に、「どうやったらそれ出来るようになるの?」というのは、失礼ながら愚問中の愚問です。「毎日やっていたから」というトートロジカルな答えしか出て来ないに決まっています。

それでは、大人になってから読書習慣を身につけることは不可能なのでしょうか?ありがたいことに、これには立派な反証があります。例えば、日垣隆。この方は、私が知っている中で、私より多く本を読んでいると確実に言える数少ない人でもあります。彼が現在に至る読書習慣を培ったのは、プロのライターになると決めた後とのことなので、参考にするならむしろこちらの方だと思われます。

とはいえ、彼とて一朝一夕にあれだけの本を読み書きできるようになったわけではありません。いきなり彼がいくつもの著書で披露している術をまねても、うまく行かないのは目に見えています。もしそれでうまく行くとしたら、私としても「日垣嫁!」の一言ですむのですが。

さらにありがたいことに、最近はblogにもヒントは上がっています。

これを読んでおくと読書スピードが速くなる。自己啓発書編。ついでに知的生産編:[俺100]
私も、結構読書スピードは速いほうだと思うのですが、(ビジネス書を中心に最低1日2〜3冊、月に50〜100冊位読みます)それもシンドイよー、という方のために少し私なりのアドバイスなどを書きたいと思います。

「俺100」の中の方は、私とは違って後天的速読家のように見受けられます。その彼と私が一致するのが、以下の部分。

  • 予備知識がある本は速く読める
  • 予備知識がある分野を増やせばよい
  • 予備知識がある分野を増やすには、読書することが必要

この知見を、どうにか速読、と言わずとも、読書力を高めるために使うにはどうしたらいいか、と考えて選んだのが、本entryのタイトル、「速読に役立ちそうな5冊とその読み方」です。要は本を読む事で本を読む方法を体得していこう、というものです。

前置きが長くなりました。それでは、その五冊とその読み方を以下に。

すぐに稼げる文章術

前述の日垣さんの本ですが、いきなり頭から読まないこと。まずは第七章を開きましょう。ここに33冊の本が列挙されています。うち最後の3冊は「レファ本」なので「読む」対象からはちょっと外しますが、残りの30冊を入手しておきます。積読で構いません。「では、どれくらい本を読めればいいのか」という設問に対し寄せられた声で一番多かったのが、月10冊程度ということなので、これらを3ヶ月で読破することを目標にします。

それが済んだら、とりあえず本書は本棚に一端収めましょう。

技術の伝え方

次にとりかかるのは、「技術の伝え方」です。畑村洋太郎の本はどれもいけるのですが、特に「速く読めるようになる」に役立つのが本書です。

そのまま普通に読んでも充分速く読めるのですが、ここで読み方をちょっと工夫することにします。以下のように読んで下さい。

  1. まず目次をじっくり読む
  2. 序章と「おまけの章」をさっと読む
  3. 図版(ポンチ絵)をざっと見る。地の文はとりあえず無視する方向で
  4. 太字のところだけじっくり読む。
  5. 頭から通読する

どうでしょう?スケッチがだんだんデッサンに化けて行くような感じがしませんでした?優れたノンフィクション、特に技術書は、一部分が全体の相似形、フラクタルになっています。だから目次だけ読んでも「読んだ気になり」、それは通読した後もその印象が残ります。

「通読家」はこうした読み方を莫迦にしがちです。「それで読んだことになるのか」、と。はっきり申し上げて、それは読書というものを知らないのです。読書は脳に情報をダウンロードすることでは断じてありません。むしろ「デフラグ」や「ガベージコレクション」に近いのです。だから、節目節目で「作業が完了している」という感覚を得るのは大変重要なのです。よく書けた本というのは、この「節目感」がとても快いのです。まずは本書でそれを味わって下さい。

夕凪の街 桜の国

次は、こちら「夕凪の街 桜の国」。なぜこれが次に来るかというと、読む速度というのはいくらでも変えられるし、そして速く読むのがいいことだとは限らないという例でもあるからです。

「漫画なら速く読める」という方は大勢おられます。いいでしょう。本書はわずか一巻、わずか103ページです。長尺化著しい漫画界にあって、一冊の本になっていてかつこれだけ短いものはそうはないでしょう。

舞台は原爆投下直後の広島から、直近代の東京まで。背景となっている歴史を、我々はよく知っています。歴史の授業でならったことが、物語の「理解」に確実に役立つはずです。まずは15分で読んで下さい。感情は抜きにして、まずはあらすじを叩き込むように。かなり読書が遅い方でもできると思います。

おそらく、この状態であなたは本書のあらすじを理解しているはずです。

しかし、「読んだ感」を得られたでしょうか?むしろ今やったことが作品を冒涜しているような気にはなりませんでしたか?

今度は、一コマ一コマ味わうように、ゆっくりゆっくり読んで下さい。半日ぐらいかけて。ちゃんと半日かかりましたか?

告白すると、私は本書を「読み」ましたが、未だに「読み切った」気になりません。漫画のすごいところは、こういうところにもあります。速く読もうと思えば、いくらでも速く読めるし、味わって読もうと思えばいくらでも味わって読める。その気になれば一字一句暗記することすら可能な文字だけの本とは、そこが違います。ちなみに、日垣さんは漫画を読むのは字だけの本を読むよりも時間がかかるのだそうです。

余談ですが、横山光輝の「三国志」全60巻は、ふつうの人でも一日もあれば「読める」と思います。その後に吉川英治の「三国志」を読むと、それだけで読む速度が速くなるのを体感できると思います。しかし、私にとってはそのどちらもそれほど「後に読み返したくなる本」ではありませんでした。こういうのは、実際に読んでみないと体験しづらいですね。

ギャグマンガ日和 「ソードマスターヤマト」

上記の「読む時間はいくらでも調節可能だ」という例をさらに体感してもらうために、もう一作。原作も去ることながら、アニメ版の方。リンクはしておきませんが、「ソードマスターヤマト」で引けば沢山出てきます。

わずか10分の間にエピソードが二つ。しかも一回見ただけでも何がおきたか理解可能。その上速読力があろうがなかろうが、画面の前で10分過ごすだけ。

なぜこれを「速読」のコンテキストで取り上げたかといえば、実は「読む」速度というのは、読み手の方でいくらでも調節可能であるに留まらず、書き手の方でもまたいくらでも調節可能だという例を示したかったから。TVというのは、いわば強制的にそれをやらされるわけです。TVほど制限はきつくなくても、連載漫画もしかり。ソードマスターヤマトでは、そのこと自体がギャグになっているという点が高度です。

こう立て続けに例を示されると、「やっぱ速読なんか意味はない」と思われるかも知れません。実は私も半分だけ賛成です。重要なのは何から何をどれだけ読み取るかであって、それは1作品から読めるだけ読んでもいいのだし、100作品から少しずつ読み取っても構わない。

ただし、ここが重要なのですが、速読が出来る人は遅読も出来るが、その逆は真ならず、ということ。あることを「知って」「感じる」のに、一体何冊の本を読めばいいのかというのは人それぞれだと思いますが、それだけ多くの本を読めれば、それだけその感覚を得る機会というのは増えます。早送りもスローモーションも両方できてこそ、よき読者というべきですし、そのどちらの鑑賞法にも耐える作品こそいい作品だというべきではないでしょうか。

ローマ人の物語 II ハンニバル戦記

というわけで、紹介する5作品目の最後が、こちら。なおここでは「作品」の定義として単行本の方を採用しています。文庫本で入手した方はご注意を。本書を選んだのは、ノンフィクションとフィクションの事例をある意味兼ねているから。フィクションとノンフィクションは、読まれ方も読む速度もかなり違うのですが、共通点も少なくないので。

これを、まずは速読してみます。やり方は、こう。

  1. 「はじめに」を読む
  2. 巻末の年表を頭に叩き込む。ポエニ戦争の歴史をすでに熟知している人は、ここを飛ばしてOK
  3. 頭から読む。ただし、一分たったら、読み終わってなくてもページをめくって下さい。一ページ30秒の計算です。

読んだ気にはならなくても、大枠をつかんだ感じにはなると思います。

これをやった後は、読破感を得られるまで、好きなペースで読んでみて下さい。おそらく今まで読んだよりもずいぶんと速いペースで読めるようになっていたのではないでしょうか。

このクラスの本を、一日で読めるようになれば、あとはわざわざペースを上げるための「トレーニング」はいらないと思います。ただし、毎日そのペースを続けること。そうしていけば、嫌でも読むのは速くなると思います。私自身、読む速度が上がる速度 - 加速度 - は昔と比べてだいぶ落ちていても、今だプラスであるという実感があります。ティーンエイジャーの頃よりも今の私の方が、より少ない時間でより豊かな「読後感」を得ているという感覚が確固としてあるのです。

ふりだしに戻る

以上を踏まえて、最初に設定した30冊を読み負えたら、改めて「すぐに稼げる文章術」を読んでみて下さい。いかに自分が速く読めるようになっているかに驚かれるかも知れませんよ。

逆説的ですが、そうして自分の読書力が向上している実感が抱けない人は、読書をあきらめるというのも一つの手かもしれません。ものを学ぶ方法は読書ばかりではありません。どんな読書だって実体験には劣ります。人にペース配分されるのを厭わなければ、TVだって悪くない。地上波をだらだら見るのは時間のムダですが、スカパーとかでチャンネルを上手につまみ食いすれば、読書に劣らぬ教養を与えてくれそうな番組はいくつも見つかります。

それでも、読書ほど「こちらのペース」にあわせてくれるメディアは、いまだ存在しません。この点においてはネットもまだ追いついていない。少なくとも、トイレでblogを読みたいとは思わない。その意味において、読書は最もコストパフォーマンスの高い知的ストレッチ術であり続けるでしょう。いつか「攻殻機動隊」や「マトリックス」ばりに、神経直接接続がなされるまでは。

Dan the Bookworm