献本御礼。良著。
「ソーシャル・ウェブ入門」を気に入った人なら、本書も気に入っていただけるはず。
本書「セカンドライフ創世記」は、数ある「セカンドライフ本」の中では、一番読み応えがあった本。なぜ読み応えがあったかといえば、他の本が固有名詞、すなわちSecond Lifeという名のサービスの表層を撫でているのにとどまっているのに対し、本書は一般名詞、すなわち「よりリアルな仮想現実」としての second life を書いているから。
目次 - impress Direct:セカンドライフ[Second Life]創世記より- メディアが伝えるセカンドライフ
- セカンドライフを理解する
- 大人がハマる仮想世界の魅力とは
- 「月100万」のペースで増える人口
- セカンドライフへの参加とその世界の仕組み
- 多くの日本人に受け入れられるか
- セカンドライフの未来はどうなるのか
- そこで何が起きているのか――仮想店舗と日本人町
- IBM島での3Dシミュレーション
- ダイムラー・クライスラーの先行事例
- 日本の観光名所
- セカンドライフを活かすビジネスの手法
- 企業は3D仮想社会をどうとらえるのか
- セカンドライフ進出企業支援サービスの進化度
- 欧米と日本のセカンドライフ・プレイヤーの動向
- リアルとバーチャルでのビジネスの可能性
- 求められるマーケティング手法の確立
- 組織や個人の様々な活用パターン
- 大学やビジネススクールの進出
- 選挙戦と政治活動
- 華麗なるファッション・ショーと新進デザイナー
- 世界を見据えて音楽にかける夢
- ネット・イベント企画を追及する草の根パワー
- セカンドライフSNSが支える住民の交流
- リンデン・ラボという企業の理念と歴史
- リンデン・ラボの理念
- リンデン・ラボのキーパーソン
- リンデン・ラボとバーチャル国家――誕生の歴史
- オープンソース化による新たな飛躍への期待
- 仮想世界市場のプレイヤー
- セカンドライフを支える技術
- セカンドライフの技術と課題 COLUMN...在庫目録の価値とリスク
- クライアント・ビューワはエキサイティングなツール COLUMN...オープンソース・プロジェクトのゆくえ
- 3Dオブジェクト制作用の標準ツールと外部ツール COLUMN...リアルなオブジェクトの制作には費用がかかる
- LSLの可能性 COLUMN...LSLのコーディングに便利なツール
- 課題と現状/仮想通貨、コピーボット、etc.
- 仮想通貨と現実通貨
- RMTを巡る議論
- リンデン・ドルの流通
- 課税問題や法律への対処
- 知的財産権の考え方
- コピーボットへの対処
- キーパーソン・インタビュー/3Dインターネットの近未来
- Interview1「ウェブが普及したように3Dが当たり前になる時代がやってくる」
島谷直芳氏[メタバーズ代表取締役社長] - Interview2「既存メディアと組み合わせて購買へと結び付けたい」
北爪宏彰氏[博報堂 i-事業推進室 事業開発推進部 プロデューサー] 森永真弓氏[博報堂 買物研究所研究員]
相川雅紀氏[博報堂DYメディアパートナーズ i-メディア局 メディアプロデューサー] - Interview3「将来は、異なる仮想世界の接続やコミュニティの形成を支援したい」
新谷卓也氏[ジップサービス代表取締役副社長] - 投資家GMO Venture Partnersの目から見た3Dインターネットの可能性
- Interview1「ウェブが普及したように3Dが当たり前になる時代がやってくる」
- [付録]参考サイトURL
- 索引
それもそのはずなのは、共著者の中に「ソーシャル・ウェブ入門」の滑川海彦がいるかも知れない。実際私にとって一番面白かったのは、彼が担当したChapter 5だった。
それでは、なぜ一般名詞の second life であることが重要なのか。
それは、大変言いにくいことだが、固有名詞としての Second Life がとても「住みたくなる世界」だと感じられないからだ。少なくとも、私にとっては。
すでに私のセカンドライフ批判は「2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?」でひろゆきとの対談で言ったので、詳しいことはそちらをお読みいただくとして、まとめると以下の二点に集約される。
- リアルであって欲しいところがリアルでない
- リアルであって欲しくないところがリアル
「リアルであって欲しいところがリアルでない」のは、なんといってもUI。Second Lifeをうろちょろすると、肩こりがひどくなる。歩き回って肩がこって指が痛くなるというのは、正直勘弁してほしいが、少なくとも今のPC経由のSecond Lifeは体に優しいものではないと思う。
とはいえ、それくらいの苦痛をはねのけるほど Second Life が魅力的な世界なら、「SL廃人」となるのも厭わない。ところが、現在の Second Life は「リアルであって欲しくないところがリアル」なので、私にとっては出来損ないの現実でしかない。それであれば First Life の方がずっといい。
例えば、アバター。せいぜい性別を変えたり乳のサイズを変えたりぬいぐるみを着るぐらいのことしか出来ない。こんなの現実世界だって可能だ。はっきり言ってよく出来た小説を脳内展開した方が私にとってはずっと気持ちいい second life だ。あれだけのCPUパワーと回線帯域を使って、宇宙人にも未来人にも超能力者にもなれないなら、まだラノベでも読んでた方が「地球にやさしい」(←反吐が出そうな言葉故あえて使う)。
しかし、一般名詞として second life は、いつか来る。その時にどうするかというのを考えるのは、「いつか地球は滅ぶから今からどうすべきか考えておく」というのと同じように時期尚早なのかも知れない。それでもそれを考えるのは楽しいことだし、そしてその日は思ったよりも早く来るかも知れない。そんなとりとめのない考えの道しるべで、本書はある。
本の体裁もすばらしい。A4、1500円というのは、ネット時代の教養本には理想的なサイズ。この手の本には珍しく索引がきちんとついている点も評価↑。本書の体裁はWeb時代で本を書く場合の一つのひな形となりうるだろう。
実際に Second Life に探検滞在するにしても、知人に「見栄セカンドライフ」を披露するにも役立つ一冊。
Dan the Man in the First Life
もしかしたら滑川さんは著者にいないかも知れない。
揚げ足取りです。