「携帯電話はなぜつながるのか」と一緒に献本いただいたのだけれども、書評を出すには今が絶好のタイミングなので。
ちょっとタイトルが大きすぎる。本来のタイトルは「本当はヤバいインターネット幹線事情」。
本書「インターネットは誰のものか」は、動画配信がブレイクしたことにより、とりあえずうまく行っていたインターネットに再び危機が訪れていることを警告している本。ここでいう問題は、「ネット」ではなく「インター」の方。
目次 - インターネットは誰のものか の主な内容より。- 序 章
- 第1章 最悪のシナリオ――こんなインターネットは要らない
- 第2章 インターネットの「お金」の仕組み
- 第3章 均衡は取り戻せるか
- 第4章 ブロードバンド大国・日本の特異性
- 第5章 見えてきたインターネット2.0の世界
忙しくても、第二章だけはきっちり目を通しておいてほしい。なぜなら、この部分、あまりに一般に知られていないからだ。だからこんなとてつもない勘違いも出てくる。
駆け出しプログラマーのグループ - hamastaの日記 -Pythonで学ぶプログラミングの世界- - 日本のWEB動画ビジネスを切り開いたのはなんとニコニコ動画だった有料会員5万人ということは単純計算で
500円×5万人=2500万円/月
の売り上げですね。
ここまではいいとして、
ニコニコ動画の運営にサーバー代、通信費、人件費(専任担当者は最大10人くらい?)などで年間最低2億かかるとしても、売り上げこのままで3億円/年くらいになるならば、
粗利益1億、粗利益率33%になります。
十分ビジネスとして成立してしまいますね。
とこられたら、バックボーン屋さんはorzというものだろう。月2500万円じゃ、回線代さえまかなえないのだ。一例として、
を挙げるけど、この月額62万7,900円というのは、100Mbps = 0.1Gbpsの値段。
で、ニコニコ動画がどれほどトラフィックを食っているかというと....
動画再生回数10億回突破! - ニコニコ動画 開発者ブログ(新着情報)現在、ニコニコ動画無料用の回線として合計30Gbps程度がフル稼働していますが、今月中に20Gbpsが追加される予定です。
30-50Gbpsというのは、この300-500倍。もちろん料金まで単純にかけ算になるわけではなくて、どうやって料金が決まるかは本書で確認して欲しいのだけど、50Gbpsというのがどれほどとんでもない数字かというと....
SAKURA.AD.JP // インターネット接続 − IPトランジットSAKURA InternetのIPトランジットは、大容量・高速102Gbpsバックボーンに、お客様の拠点をギガビットで接続し、インターネットへのコネクティビティを提供するサービスです。
そう。さくらのバックボーンの半分。ニコニコ動画だけで。
それでどれだけの人がカバーできているかというと....
動画再生回数10億回突破! - ニコニコ動画 開発者ブログ(新着情報)24時間開放されているユーザは110万人に対して、時間限定ユーザは70万人もいて、4月のときは2週間待ちだった24時間開放までの期間は、現在、2ヶ月まで伸びています。また、180万ID以降は、現在、登録してもまったくアクセスできない状態になってしまいました。
という状態。そう、まだニコニコ動画でニコニコライフを送っている人々は、110万人しかいない。もしニコニコ動画がYahoo!なみに使われるようになると、単純計算で今の40倍は帯域幅が必要になるのだ。
そう、ニコニコ動画は実にニコニコと日本のインターネットの幹に匕首を突きつけているのだ。
たった2500万円/月程度のインパクトなわけないでしょうが。
とはいえ、一昨年あたりまでは、ネットの問題というのはサーバーとクライアントという「端」の問題はあっても、「間」の問題はほとんど出てこなかった。実際にITバブルの過剰投資のおかげで、この「間」の部分がだぶついていたということもあるし、中の人々が多いにがんばって問題を顕在化させなかったということもある。
しかし、もう「間」のことを抜きにしてネットを語れる時代は、YouTubeのおかげで疑問符がついたと思ったら、ニコニコ動画にとどめをさされる寸前まで来てしまった。
本書は実は官僚の手によるものなのだけど、「官僚モード」でないとなかなか得られない知見を、「市民モード」で書いているところがいい。焦点がぼやけすぎのタイトルに騙されないで、一人でも多くの人に知っておいてもらいたい問題提起が、ここにある。
Dan the Net (Ab)?user
申し訳ありません。