献本御礼。

我々が知らないもう一つのWebの世界が、ここにある。

本書、「モバゲータウンがすごい理由」は、DeNAの稼ぎ頭、モバゲータウンだけではなく、現在のケータイWebをとりまく状況を、1978年生まれの著者が解説した一冊。なぜ著者の生年まで書いたかといえば、ケータイWeb的に「あちら側」世代ぎりぎりだからだ。それより前に生まれた者は、「ふつうのWeb」的には「あちら側」でも、ケータイWeb的には「こちら側」。1969年生まれの私も、例外ではない。

目次 - MYCOM BOOKS - モバゲータウンがすごい理由 〜オジサンにはわからない、ケータイ・コンテンツ成功の秘けつ〜より
  • 序 章 ケータイ・コンテンツ市場の勝ち組「ディー・エヌ・エー」
    • ミクシィを凌駕するモバゲータウン
    • 定額制が生み出した新たな勝ち組
    • 快進撃を続けるディー・エヌ・エー
  • 第1章 通信の進化とパケット定額制の普及
    • 加速する第3世代への移行
    • パケット定額制の普及
    • 定額制の普及で変わるコンテンツ市場
    • MNPで受ける影響とは?
  • 第2章 劇的に変わるケータイの環境
    • 公式化=勝ち組の終えん
    • 3キャリアが導入した検索エンジン
    • ケータイの進化に伴うアクセスの多様化
    • 伸びるケータイ広告市場と課金代行
    • コンテンツの二極化は進むか?
  • 第3章 キャリアと一体化する「超」公式サイト
    • より密接に提携するコンテンツ・プロバイダーとキャリア
    • 「超」公式化を進めるauのメディア化戦略
    • 両社の躍進のきっかけを作ったauオークション
    • パケット定額制で実現したモバオク
    • auショッピングモールの成功
    • ヤフーを取り込んだソフトバンク
    • iモード=囲い込みの誤解
    • キャリアは最大のライバル?
  • 第4章 伸び続ける勝手サイト、モバゲータウン
    • あいまいになる「公式」と「勝手」の境界
    • 急成長する勝手サイトの筆頭
    • ビジネスとして成功するモバゲータウン
    • きっかけは無料ゲーム
    • アバターでバーチャルを楽しむ
    • 他のSNSよりも親密なコミュニティ
    • 矢継ぎ早に流行機能を取り入れる
    • ケータイによる逆説的な安全性
    • モバゲータウンにハマる若者たち
    • ポータルを目指すモバゲータウン
  • 第5章 ディー・エヌ・エーに学ぶ「モバイル」という「魔法」
    • インターネットの成功モデルにかける「魔法」
    • ケータイならではの大きな制約
    • ケータイ市場を的確に読む
    • PCの世界を知らないユーザー
    • ケータイを「体験」する必要性
    • 市場を知っているからこそ保てるユーザーとの距離
    • ケータイに特化した成功
    • 公式サイトと勝手サイトの使い分け
  • 第6章 ケータイコンテンツの未来
    • さらに二極化が進むケータイ・コンテンツ
    • コンテンツ・プロバイダーの勝手サイト進出
    • PCとケータイのコンテンツは一体化するか?
    • おサイフケータイで変わる課金の重み
    • 新規参入業者という第3の道

私自身は、ケータイWebの技術に関しては一通り知っている。それがどれほど「ふつうのWeb」と違うかも頭だけではなく手で知っている。しかし、純粋にユーザーとして見ると、おじさんもいいところで、ケータイをどれほど使いこないしているかという点では、妻どころか長女や母にも劣ると思う。メールもほとんど受信だし、送信するときには「仕方なく」そうしているし、メール以外では地図や時刻表など、これまた手元にMacBook Proがないときだけ「仕方なく」使っている。あくまでケータイWebは、「ほんとうのWeb」を補完するツールという使い方だ。

しかし、モバゲータウンに集う若者たちは、違う。ケータイこそ「ほんとうのWeb」で、パソコンこそそれを補完するツールだ。彼らに取って、パソコンはおもくてかさばってうざいものなのだ。

そういう意味で、IT教養系の本で、久々に「知らないこと」を読ませていただいた。目から鱗度では今年一番の新書かも知れない。

それがどんな世界であるかは、是非本書で確認していただいた上で、実際に体験していただきたい。告白すると、私にはやはり現在のケータイの貧弱なUIは耐えられない。パソコンメイン、ケータイサブというのは今後も変わらないと思う。しかし、ケータイの「あちら側」の世界というのは、シカトするにはあまりに広すぎる。少なくとも「外国語」としてでもいいからある程度の「日常会話」ぐらいはこなせるようにしておきたい。

p. 219
ケータイ・コンテンツへの理解が不足しているのは、通信事業者を監督する総務省も同じだ。例えば、モバイルビジネス研究会では、勝手サイトに関してはほとんど触れられていない。オブザーバーとして呼ばれたのは、公式サイトを展開しているぐるなびやインデックスぐらいで、キャリアとの取り組みを強化するきっかけをつくったディー・エヌ・エーなどの勝手サイトを事業化しているコンテンツ・プロバイダーは完全に蚊帳の外だ。日本のケータイ・ビジネスのあり方を考える会議が、これでいいのだろうか?

「総務省」を「私」におきかえても、上記の文章は成立する。私は他のおじさんたちよりは「中のこと」は知っているし、器に関しては作ってさえいるが、中身に関して知っているとはとても言えない。ましてや「勝手サイト」と「公式サイト」という言葉さえ知らない人であれば、なおさらケータイWebの世界は暗黒大陸だろう。

本書は、おじさんにもその暗黒大陸が「どんな感じか」を伝えてくれる格好のガイドだ。ケータイは音声しか使わない方、メールは使うけどWebは使わないという方、ぜひご一読を。

Dan the Old Dog Thereof