実名匿名に関する私の意見は、すでに何度も述べてきているのだけど、最近また変化があったので改めて書き加えてみる。
まず、実名匿名を問わず、名前というものの基本定理から。
404 Blog Not Found:実名は振込口座?それとも振替口座?実名とは、一種の「口座」なのではないか。文字通り「名声」(reputation)を決済するための。
「実名とは」と書いちゃってるけど、これは実名でなくても仮名でも何でもいいのは、それに続く他のentriesにも書いたのでここでは略。一応関連リンクだけ以下に。
- 404 Blog Not Found:実名は振込口座?それとも振替口座?
- 404 Blog Not Found:筆名!=匿名
- 404 Blog Not Found:弱いんじゃない、力がないだけだ
- 404 Blog Not Found:名前のスケーラビリティ
- 404 Blog Not Found:パーティーの後片付け - 第4回ICPFシンポジウムのまとめ
名前とは、アカウントのことで、実名にせよ仮名にせよ、匿名でないものというのはその名前に対してのアカウンタビリティがある。これは基本中の基本なので、よく覚えておいてほしい。
それでは、なぜ名前というアカウンタビリティが要求されるのか、正確には、いつ要求されるのか?
そのアカウントを再利用するために、必要だからだ、というのがその答えになる。
裏を返せば、再利用する必要がない言説には、アカウントは必ずしも必要ないのだ。言い捨て御免で済む場合、名前は無用の長物なのだ。
小倉先生をはじめとする実名至上主義者たちが、なぜ匿名を蛇蝎のように嫌うのかといえば、匿名者たちに言い返せないのがいやだからだ。逆説的だが、実名至上主義者たちは匿名者を「今後つきあう対象」として見ていることになる。今後も(ど)つきあいたいのに、名前がなければそれもかなわない。だから名乗れ、アカウントを明示せよ、ということになるわけである。
しかし、我々は本当に出会ったことのある全ての人と、永続的な関係を結ぶ必要があるのか?そもそもそれだけの暇があるのか?
少なくとも、私には無理である。
la_causette: 自分たちが言論の抑圧者になっていることに気付かない(ふりをする)匿名さんたち昨日のエントリーに対するはてなブックマークコメントを見ていると、匿名さんたちは、自分たちが言論を弾圧する側に回ってしまっていることを認めたがらないようです(本当に気付いていないかもしれませんが)。
それでは、具体的にそれで弾圧された言論の例というのを示してほしい。小倉先生は、明らかに弾圧されていないし、私もされていない。実名を公の場に晒している人というのは、匿名さんたちに弾圧されるほどやわじゃない。匿名は、やかましいけど痛くはないのだ。痛いというのであれば、選挙のウグイス嬢の声の方がよほど耳に痛い。あれこそ物理的な暴力だ。傷害罪でぜひともひっとらえていただきたい。
閑話休題。なぜ痛くないかといえば、匿名さんはアカウンタビリティゼロだから。匿名さんたちの「言葉の暴力」をスルーするには、このことに気がつきさえすればいい。これがゼロでないと思い込むから、幻痛が生じるのだ。
匿名発言は、アカウンタビリティゼロ。それが誹謗中傷であれ美辞麗句であれ。
そう。悪い方だけではなく良い方にもアカウンタビリティゼロ。褒め言葉もそれが匿名でなされた場合はアカウンタビリティゼロ。褒め言葉だって、実はアカウンタブルでない方がずっと発しやすいのだ。
そのことがうまく行っている例を、ニコニコ動画に見ることができる。そこでのコメントというのは、実にポジティブなものが多い。ネガティブなものももちろんあるけど、そういったものは弾幕に消される。たけくま教授も絶賛のボブの絵画教室なんか、その典型例。
注意して欲しいのは、アカウンタビリティゼロというのはゼロバリューを意味しないということ。アカウンタブルでないバリューはどこに行くかというと、人ではなく場に蓄積される。そして充分にバリューがたまると何が起こるかというと、場に蓄積されたバリューを受け取るべき人を場の方で探すようになるのだ。
WebLab.ota - ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』そうして”玉”として認知された彼らを、ネット上の誰かがリミックスして発表した。(個々で歌われている組曲『ニコニコ動画』を編集したもの)おそらくリミックスとして発表された第一弾はこれである。これを受けて二日後には
- ニコニコ動画(RC) ‐魁!漢組曲!- Re: いさじ ゼブラ J - 2007年07月17日
がまたネット上の誰かによって発表された。このバージョンではまずゼブラ、フーミン、内緒妹、ガチ姉、ニコ姫というキャラクターを固定化させた。おそらく顔も知らないであろう彼らをSDキャラで登場させている。 そして、この動画のコメントに多くのリクエストが寄せられて
- ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』5人混ぜて大合奏! 2007年07月19日
が発表された(これは上記と同一人物)。このバージョンでは上述したキャラクターに追加して、いさじとReのキャラクターが固定化された。
- ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』5人混ぜて大合奏!ver.2 2007年07月22日
ここで留意しておきていのは、「いさじ」や「ゼブラ」はさておき、「フーミン」、「内緒妹」、「ガチ姉」そして「ニコ姫」は、本人たちが名乗ったのではなく、作品を見た視聴者たちが名付けたこと。歌った方も聞いた方も、アカウンタビリティを放棄しているのに、作品が秀逸だった故に「正のアカウンタビリティ」を場が献上しようとしていること。
シナトラ千代子 - 匿名実名論争をムダにしないためにも小倉先生にお願いしたいこと今ニコニコ動画で起こっているのは、ちょうど「匿名の有益でも無益でもないエントリー」と「匿名の各分野の専門家によるレベルの高いエントリー」の境界あたりにあり、そして境界というのはどんな場合においても面白い。実名至上主義者たちも、こういう形で「無名」が「有名」になっていくという場があることは知っておいてもいいのではないだろうか。
繰り返す。名前というのはアカウントであり、その維持には相応のコストがかかる。そのコストを先払いせよというのもいいけど、アカウンタビリティを放棄している者にまでそのコストを要求するのは、過剰請求以外の何者でもない。そして、そのコストを支払えるだけの余力があるものには、それに見合ったアカウントが与えられるのだ。
名乗るのは、そうなってからだって遅くないんじゃないか。
小飼弾という名の通りすがり
>いっそ、一度どこかでカンファレンスでも開いてそれぞれ実名で匿名は是か否かを
>議論してみればいいと思うのだけど。
>Posted by 匿名です at 2007年07月27日 00:01
過去にやってますよ(小飼弾さんは参加されてませんが)。
http://www.glocom.jp/ised/