献本御礼。それも著者ご本人から。
タイトルどおり、派遣社員のリアルを知るのに現時点では最適の一冊。
本書「派遣のリアル」は、今や日本を代表する「経済者」の感もある門倉貴史の最新作。宝島社新書から上梓したものとしては、ワーキングプアに続く二冊目。
目次 - 新書 派遣のリアルより拡大する日本の人材派遣市場 / 派遣会社の形態あれこれ / やむを得ず派遣労働者となった人たち / …ほか
1985年までは禁じ手だった日本の派遣ビジネス 1966年に米国の人材派遣会社が日本に上陸 1986年に成立した「労働者派遣法」 / …ほか
理想と現実のギャップが大きい派遣の世界 増加する女性の派遣社員 企業への不満を募らせる女性の派遣社員 / …ほか
ホームレスが減少する傍らで増える「ネットカフェ難民」 「ネットカフェ難民」になりやすい「ワンコール・ワーカー」 「ネットカフェ難民」増加の背景は? / …ほか
「労働ビッグバン」は派遣社員を救えるのか? 骨抜きになった労働契約法案 賛否両論となる「労働者派遣法」の改正 / …ほか
統計を上から鳥瞰するだけではなく、現場の声をインタビューで丁寧に拾って虫瞰する「二穴責め」(ああどうして私が書くとこうなってしまうのか)は本書でも健在。
本書もまた、いつもの門倉節。これだけ多くの著書をモノにできるのは、この節を確立しているからだろう。最近は地下経済、BRICsといった、「門倉ニッチ」だけではなく、ワーキングプアや派遣社員の現状といったメインストリームも手をつけていて、いくら何でも手を広げ過ぎなんじゃないですか門倉先生という感もあるが、しかし本書を読むと、なぜここまで手を広げたのか、というより手を広げざるを得なかったのかというのが見えてくる。
p.6読者は是非「労働は商品ではない」というフィラデルフィア宣言の言葉を思い浮かべながら、本書を呼んで欲しい。
これこそが、門倉節のカーネルだ。地下経済から派遣社員まで、共通の基底が「労働は商品ではない」にも関わらず、「最も商品化した労働」である。
しかし、彼は例えば森永卓郎のような、お涙ちょうだいな文章は書かない。厳しく容赦がない現状を、厳しく容赦なく書く。あくまで現状から目をそらすな、というのが門倉節である。
本書を読むと、日本における派遣社員の現状というのは、他国以上に厳しい。まず、同一業務同一賃金の原則が確立されていないどころか、労使ともそういう原則が存在していることすら忘れているように思える。派遣社員が増えるほど、「やっぱり正社員がいい」という声が大きくなる一番の理由がこれだ。今のところ、派遣社員は日本では「二級市民」扱いなのだ。
P. 220『資本論』を著した経済学者のカール・マルクスは、労働が生活費を稼ぐための単なる手段に成り下がる現象を「労働の疎外」と呼んでいる。現在、派遣社員として働く人たちの職場では、こうした「労働の疎外」が常態化していると言えるのではないか。
とはいえ、派遣社員を正社員化するというのは、労働が商品ではないにしても、労働と商品が切っても切れない関係であるがゆえに、短期的には正しい答えとなりえても、長期的には正しい答えとはますますなりがたいのだろう。正社員になったはいいが、今度は会社ごとなくなりましたなどというもっと笑えない結末になる公算は、発展途上国の発展を疎外できない以上ますます大きくなるのだから。
むしろ、派遣社員こそ「普通の社員」となり、「社に尽くす」のではなく「職に尽くす」というのを徹底させた方がいいのではないか。著者はその成功例として、英国の事例を取り上げている。かの国では、派遣社員は「同じ仕事を安く」ではなく「よりいい仕事をしてもらう」ための仕組みとして確立しているようで 給与も正社員より派遣社員の方が高いのだそうだ。
いずれにせよ、「300万人の悲鳴」から耳を塞ぐことは、もはや許されないところまで来ているのは確かだ。300万人の一人としても、残りの一人としても、目をそらさずに読んでおきたい一冊。
Dan the Self-Employed
先日NHKBSの週刊ブックレビューで
菊池英博氏の「実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠 」を
森永卓郎氏が薦めていましたね。
おそらく読まれていると思いますが弾さんの書評が見たいな〜。