夏休みの最中ですが、書評です。
....こりゃ夏休みどころではない。なにしろ、本書はこの一年で出た本のうち私が読んだ中で、最も多くの人に読んで欲しい本ベスト1なのだから。
本書「未来を予測する技術」は、地球シミュレータセンター長、佐藤哲也が、未来を予測するとはいったいどういうことなのかを、全身全霊を込めて書いた本。この本が売れなければ私はもうblogで書評するのをやめてもいい。
目次- はじめに
- 第一章 一つの技術が人間の生き方を大きく変える
- 第二章 人類の未来予測は"占い"から始まった
- 第三章 現代科学のパラダイム
- 第四章 現代科学の忘れ物
- 第五章 人間の弱点を補うコンピュータ
- 第六章 シミュレーション文化の胎動
- 第七章 未来を観る望遠鏡
- 第八章 シミュレーション文化の世紀
- 第九章 終章
見てのとおり、本書は地球シミュレータのトップが書いた本であり、当然地球シミュレータも登場するのであるが、しかし本書は地球シミュレータ「だけ」の本ではなく(それはそれで別に書いて欲しい!)、そして地球シミュレータは、ただの超高速超巨大超高額コンピュータではない。
p. 29地球シミュレータは、人類が開発したこれまでの技術の中で唯一、未来を直接の研究対象とし、その行く末を科学的に観測してくれる最初の道具といってもよいのである。
それだけの思いが込められているからこそ、その機械には「地球シミュレータ」という、略語でもコードネームでもなく、体を表す名前を与えられたのだろう。これほど素敵な名前をもつコンピューターを、私は知らない。単なるピーク性能でこそトップではなくなったが、この名前は今もって世界でも最も素晴らしい電脳名だと思う。
確かに、その性能も価格も消費電力もすごい。しかしこれらのすごさは、高性能のための高性能とは正反対の方向に費やされている。地球シミュレータは、地球をまるごとシミュレートすること、まさにそれを可能にするために計画され、建造され、利用されているのだ。
このことを、一納税者として誇らずにはいられない。世界のその他のスーパーコンピューターが何に利用されているか、実はほとんどが核爆発のシミュレーションなどの軍事用なのだ。その国のスーパーコンピューターは、その国のためだけに使われているのが「グローバルスタンダード」なのだ。しかし真にグローバルなシミュレーションを行い、それをグローバルに公表しているのは、未だ地球シミュレータぐらいなのだ。これを誇らずにいられるだろうか。
p. 102しかし、二十一世紀のはじまりとともに現れた地球シミュレータは、理論を凌駕し、新たな科学技術のパラダイムを彷彿とさせる風格を備えていた。ニューヨークタイムズをして「コンピュートニク」と名づけしめた本当の理由はここにあるのだ。日本人の関係者のほとんどは、地球シミュレータのピーク演算能力が四〇テラフロップスという、当時としてはとてつもない値だたからだと単純に今でも誤解をしている。この誤った認識は、日本人の科学に対する理解のレベルの低さを示す一つの実例だと思う。
その思いが、著者に本書を書かせずにはいられなかったのだろう。
本書の著者は、未来予測に関しては世界の第一人者であるけれども、プロの物書きではない。それ故、本書は読みやすい本では残念ながらない。読み物としては、「スーパーコンピューターを20万円で創る」の方が読ませるだろう。なにしろ、主題ではないとはいえ目玉である地球シミュレータがきちんと登場するのは第六章なのである。読者はかなりじれったく感じるはずだ。
しかし、それだけじらせるだけの価値が、本書、いや本書の主張にはある。未来を予測するというのは、実のところ実にじれったい行為なのだ。地球シミュレータ一つとっても、今年作り始めて来年完成するというものではないのだ。1997年予算承認、2002年完成というのは、この前代未聞の機械としては異例に速い。しかしそれも長年のベクトル計算機の歴史があってそうなったのであって、同じものを作ろうとすれば中国はおろか合州国でさえもっとかかったはずである(このあたりの詳しい事情は是非本書で)。
そして、この地球シミュレータには、レトリック抜きで一人の命がかかっている。
p. 96このような世界の動きの中で、かつて旧航空宇宙研究所(現在JAXAに統合)において、数値風同シミュレータ(富士通製)を開発した(故)三好甫氏は、ベクトル・アーキテクチャのシミュレータとしての優秀性を消滅させてはならないとの一心で、想像を絶する性能のシミュレータ開発の実現に奔走した。p. 100
三次氏は開発の心労が重なり、完成目前の二〇〇一年十一月に突然逝去された。その二ヶ月前に、地球シミュレータ開発とは全く無縁であった筆者に三好氏から突然、地球シミュレータのセンター長を引き受けて欲しいとの申し出があった。
筆者は、地球シミュレータの父から地球シミュレータという娘と、そして未来というまだ見ぬ「孫」を託されたのである。そういう人が書く未来予測の技術である。前置きに五章ぐらい使っても当然に思えてくる。
p. 181「未来を予測する技術」は、「未来をつくっていく技術」である。
どんな未来を望むにしても、未来を知りたい全ての人が、一読しておくべき一冊。
Dan the Sharer of Your Future
P.S業務連絡:著者プロフィールの1965年生まれというのは、どう見ても間違い。本書には「六十代後半」という記述があるし、以下によれば1939年生まれのはず。
読んでてびっくりしたので報告まで。
言葉の使い方が曖昧&blogの記事みたいのが四章まで続く。
それを読まなくても五章以降は楽しめる。
ていうか前半は読まない方がいい。論の組み方が下手過ぎて
読む気がなくなる。
五章からあとは資料としての価値はある。
まとめもいらない。無駄の多い一冊。