妻のリクエストで買った本。

いい意味で裏切られた。

本書「オプティミストはなぜ成功するか」は、楽観主義を後付する方法と、なぜそれが有用なのかを説いた本。原題の"Learned Optimism"は、直訳すれば「後天的楽観主義」。楽観主義は生まれ持ったものだけではなく、訓練次第で身につけることもできるというわけだ。

この手の本を、私はどちらかというと敬遠しがちだ。なんというか、ダイエット本を堂々と読むのに通じる気恥ずかしさがあるのだ。だから、本書は妻のリクエストがなければ購入には至らなかっただろう。私が某ブートキャンプのDVDを買わないように。

それはなぜか、というと、こういう「楽観主義訓練」には、「アメリカ病」で取り上げられたような「アメリカ臭」がぷんぷんすることが多いからだ。私はそこに長年住んでいたし、それが結構気に入っていたのだが、デザートの甘みのどぎつさと、「スマイル0円」をやんわり強制される点だけはどうしても好きになれなかった。実のところ、私はかなりよく微笑む方のようなのだが、それでもそれを強制されるというのは別で、そこに「404 Blog Not Found:笑う門には銭来る!?」で取り上げたような「寒さ」を禁じ得ないのだ。

しかし、本書はそういう本ではなかった。本書は、鬱や悲観主義の効用をきちんと認めた上で、楽観主義にはどういう効用があり、そしてそれはどうやれば学習することが出来るかを紹介した本なのである。

pp. 168
 うつ状態にある人々はそうでない人々よりも悲しみに沈んではいるけれど、より賢いという証拠もある。
 一〇年前、当時ペンシルバニア大学の大学院生だったローレン・アロイとリン・エイブラムソンが、二つのグループに電灯をつけさせる実験を行った。電灯をコントロールする力は人によって異なっていた。非オッツのグループは完全なコントロール力を与えられ、時分がボタンを押すたびに電灯がつき、押さない時は決してつかなかった。もう一つのグループは全然コントロール力を与えられていなかった。彼らがボタンを押すと押さないにかかわらず、電灯はついた。
  両方のグループの人たちは、自分がどれほどのコントロール力持っていたかを判断するよう求められた。うつ状態の人々が自分がコントロールできた時もできなかった時も非常に正確だった。うつ状態でない人々は私たちを驚かせた。これらの人々は自分がコントロールできた時は正確だったが、無力だった時もまだ力を持っていたと判断したのだ。

こういうのを、誠実なハウツー本というのではないだろうか。

本書は、こうした反証にも十分なページ数を裂き、ハウに飛びつく前にその傍証ともなる実験の紹介も丁寧に行った結果、この手の本としては異例の400ページを超える厚さとなっている。そう。誠実のコストは冗長であることなのだ。だから本書は「明日からニコニコしたい」というニーズには答えられない。しかし、「より微笑みが多い人生を送りたい」という人であれば、本書から得るものが必ずあるだろう。

p. 399
 楽観主義の恩恵は無限ではない。悲観主義は社会全般においても個人の生活においても役目を持っている。悲観的な見方が正しい時はそれに耐えなければならない。私たちはやみくもな楽観主義ではなく、しっかりと目を開いた柔軟な楽観主義を望んでいるのだ。
 柔軟な楽観主義の恩恵は限りないものだと私は信じている。

そんな楽観主義を得たいみなさん、でも梅田望夫に禿同するのは腰が引けるみなさん、本書を一度お試しあれ。

Dan the Learned Optimist