実は、私もベーシック・インカムには賛成だ。

評論家・山崎元の「王様の耳はロバの耳!」 「ベーシック・インカム」を支持します
ベーシック・インカムとは、社会の構成員、全員に、個人単位で、暮らすに足る一定の収入(=ベーシック・インカム)を、定期的に現金で配るシステムを指す。

その理由は、ただ一つ。

それはベーシック・インカムが、受給者、すなわちこの場合は全ての人々に、選択権を与えることと同様だからだ。

もう少しひねくれた言い方をすれば、ベーシック・インカムとは、「何が生活に必要なのか」を、支給者ではなく受給者に考えさせる仕組みとも言える。例えば同じ5万円を、そのまま渡すのと、それで食料を買って渡すのとでは、資本主義社会では意味合いが異なるのだ。

評論家・山崎元の「王様の耳はロバの耳!」 「ベーシック・インカム」を支持します
これを受け取る個人は、働いていても、いなくても、関係ない。いわゆる「ミーンズ・テスト」(生活保護受給する際などの収入、資産の審査)は一切不要で、個人が、無条件で現金を受け取る。

もちろん、このミーンズ・テストのコストが下がるというのもベーシック・インカムの大いなる利点であるが、受給者に選択権、いや選択肢を考えさせることに比べればものの数ではない。ベーシック・インカムの世界においては、受給者はただ受給されたものを費消するのではなく、どう利用するのかというのを自分の頭で考えなくてはならないのだ。

そう考えれば、ベーシック・インカムというのは決して善意のバラまきでないことがわかる。むしろ「それで何を買うか」という消費行動を通じて、意見を半強制的に提出させる仕組みですらあるのだ。ワタミの渡邉美樹社長も言うように、今やお金というのは一票よりも迅速かつ的確に民意を反映させる手段でもあるのだ。そしてその投票システムにより多く、というより理論上最大の人数を動員できるということは、「群衆の英知を最大化することも意味する。

それでは、いくらぐらいが適当なのだろうか。私は月額5万円、年間60万円程度がよいと思う。少ないように思えるが、家族単位だと生活保護の支給額より多い。例えば「生活保護」によると、板橋区の一家四人に支給されるのは126,110円。一人当たり3万円に過ぎない。それでいて、これは国民年金の支給額よりも少し少ない。「ベーシック」としては、これくらいが妥当で、この程度であれば現在の所得再配分システムの手直しでまわせるのではないか。

これに日本の人口をかけると、年間72兆円。国家予算を超える額に思えるが、しかしGDPの15%に満たない。GDPの15%というのは、合州国における医療費が占める割合で、この程度であれば不可能ではない。当然何もないところから72兆円を調達するのではなく、生活保護や基礎年金(国民年金)は廃止してベーシック・インカムにとって代わるのだから、差額だけ用意すればいい。「平成15年度年金関係予算案の概要」によれば、国民年金と基礎年金をあわせた支給額は、約13兆円。厚生年金も合わせれば34兆円にもなるが、ここでは厚生年金はとりあえず「手つかず」にしておく。

あと60兆円。しかし、以前「404 Blog Not Found:弱者救済は死者をもってせよ」で試算したとおり、日本では今後年間33兆円もの資産が、その持ち主を文字通り亡くす。こうして持ち主を喪った資産は、当然原資に当てるべきだろう。

そうなると、フローから集めなければならないのは、あと30兆円弱。これでもまだ多いように思えるが、しかしこれは個人資産1500兆円の、わずか2%。これの運用効率をちょっと上げるだけで捻出できる金額でもあるのだ。

そこから全部捻出するのがいやなら、民主党が唱える「消費税の年金財源化」を、「消費税のベーシック・インカム化」に変えてもいい。これが現在10兆円ほど。その分資産課税を緩和してもいいかもしれない。

こうして見て行くと、ベーシック・インカムは理念的に優れているだけではなく、収入格差を前提としている資本主義社会においても案外無理なく実装可能なのではないだろうか。

もちろん、全員一律がいいのか、額はこれで適当なのかという議論はありうる。個人的には、若年者にもっと傾斜配分したい気持ちもある。しかし、ベーシック・インカムの利点の一つはそのシンプルさにある。ここはごしゃごしゃいじらず、国民であれば誰もが(いやでも!)受給するという仕組みにした方がいいだろう。

ベーシック・インカムが始まれば、当然それで飲んで打って買うものも出るだろう。しかしそういった行動にオカンのごとく文句を付け、「正しい行動」を押し付けるのは、自由主義の主張に悖る。ベーシック・インカムの世界においては、それで身を持ち崩すことに対する言い訳は出来ないのだ。繰り返すが、ベーシック・インカムは、その意味において決して優しいだけのものではない。それをどう活かすかは、自分の頭で考えねばならないのだから。

Dan the Taxpayer