ダイヤモンド社より献本御礼。

結論:スタバではグランデを買え!経済学本では「スタバではグランデを買え!」を買え!

それも今すぐココで(笑)!

本書「スタバではグランデを買え!」は、経済学を実際の経済に応用した本。こういう本は多いようで実は少ない。どうも経済学者という人種は、いざ自分たちの理論を実地に応用しようとすると尻込みする感が否めず、この点は例えば一般向けの経済学本としては出色の出来である「 経済学的思考のセンス」にも強く感じる。

しかし、吉本佳生は違う。遠慮なしに経済学の知見を経済に応用してみせてくれるのだ。

目次 - ダイヤモンド社:「本」の検索と購入より
はじめに
同じモノがちがう価格、ちがうモノが同じ価格
第1章 ペットボトルのお茶はコンビニとスーパーのどちらで買うべきか?
裁定と取引コストが価格差を縮めたり広げたりする
第2章 テレビやデジカメの価格がだんだん安くなるのはなぜか?
規模の経済性が家電製品の価格を下げる
第3章 大ヒット映画のDVD価格がどんどん下がるのはなぜか?
企業は、高くても買う消費者にはできるだけ高く売ろうとする
第4章 携帯電話の料金はなぜ、やたらに複雑なのか?
携帯電話会社はいろいろな方法で消費者を選別する
第5章 スターバックスではどのサイズのコーヒーを買うべきか?
取引コストの節約は、店と消費者の両方に利益をもたらす
第6章 100円ショップの安さの秘密は何か?
ときには、追加コストが価格を決める
第7章 経済格差が、現実にはなかなか是正できないのはなぜか?
所得よりも資産の格差のほうが大きな問題である
第8章 子供の医療費の無料化は、本当に子育て支援になるか?
安易に政府に頼る国民は、結局は大きなツケを負わされる
終章 身近な話題のケース・スタディ
付加価値に分解して考える
  1. 意外にも、日本が石油製品の輸出を増やしているのはなぜか?
  2. 牛肉を、ステーキ店と焼肉屋のどちらで食べるか?
  3. 家具の組み立てと運送は、どちらを先にすべきか?
  4. 子供を持つ親が喜ぶサービスとは?
  5. 携帯電話料金の話【Part 2】
  6. アジア製の安い邦楽CDは、本当に日本の音楽文化の敵だったのか?
おわりに
他人と同じだから得なこと、ちがうから得なこと

私の偏見かも知れないが、学者という人種は、方程式は誇示しても、その変数を埋めて実際に解を出すのがおっくうないし気恥ずかしい人々で、特に経済学においてそれが顕著なように思える。あたかも式が聖で解が俗であるとでも言うように。ひどい場合には、解が現実と一致しない場合、おかしいのは現実だという人さえいる。

著者は、その数少ない例外だ。「金融広告を読め」もそうだが、この人は実例をこれでもかこれでもかと提示する。属人論法がいくら「ダメな議論」と言われても、これでは同じ結論を出されても実際に変数を埋めた人の方に耳を傾けるというものである。

本書のもう一つの特徴は、その応用範囲が実に多彩なこと。小はスーパーと自動販売機の価格差から、大は格差社会まで扱っている。本来経済学というのは経済を学ぶことなのだからこのありようこそ当然なのだが、マイクロエコノミクスの本とマクロエコノミクスの本は同じ経済学の本とは思えないぐらいかけ離れている。本書はそんな縦割り行政的なセクショナリズムと無縁で、「すぐやる課」のごとくなんでもござれの感がある。

私は本書の全てに同意しているわけではない。特に第8章は、その分析には賛成するが結論には反対、というより著者自身あるコストを見落としているように感じた。それが何なのかは、本書が普及するのを待って改めて取り上げてみるつもりだが、しかし本書においてはその「意見の不一致」すら付加価値である。

それを付加価値たらしめているのが、「おわりに」。実は我々がお互いに付加価値を持っているのは、異なる価値観と、価値観どおしは取引可能だという共通意識なのだ。それがなければ、「個性」というのは「裁定」されてしまっているはずだ。

違いがあるからこそ、経済がある。

この経済の根本を本書は改めて、かつ具体的に示している。

実は「スタバではグランデを買え!」という本書のタイトルは、読者のほとんどを占めるはずのスタバの利用者の効用を最大化するのみならず、売り手たるスタバの効用も最大化する行為でもあると著者は説く。なぜそうなのかは本書で確認いただくとして、このようにWin-Winの関係というのは確かに存在し、そしてそれを見つけることこそ経済の醍醐味なのだと思う。

そんな本書とWin-Winの関係をあなたは結べるだろうか?ぜひ自分の目と手でご確認あれ。

Dan the Economic Animal