まぎれもないスゴ本。

「空気」なるものが、ここまで見えるようになるとは。

本書〈「関係の空気」「場の空気」〉は、日本語において空気とはなにで、それがどのような役割を果たし、その一方でどのような弊害をもたらすかを明らかにした上で、その空気を改善するにはどのようにすればいいのかを示した本。

目次
  • 第1章 関係の空気
  • 第2章 日本語の窒息
  • 第3章 場の空気〜『「空気」の研究』から三十年
  • 第4章 空気のメカニズムと日本語
  • 第5章 日本語をどう使うか
    1. ちゃんと語ることで日本語は伝わる
    2. 失われた対等性を取り戻すために
    3. 教育現場では「です、ます」のコミュニケーションを教えよ
    4. ビジネス社会の日本語は見直すべきだ
    5. 「美しい日本語」探しはやめよう
  • 言うまでもなく、本書における「空気」とは、大気のことではなく、複数人がいる場における雰囲気のことである。私個人は「雰囲気」と呼ぶ方が適切だと考えているのだが、しかし「空気」というのは実にうまい比喩だとも思う。何がうまいかといえば、「確かにそこに存在しながら、目には見えないもの」という感覚を実に的確に捉えているからだ。

    本書のすごいのは、この目には見えない空気を「見える化」していること。

    空気は空気であるがゆえに、そこにある感じは実に強くあるのに、それが何であるかを言葉にするのは実に難しく、それゆえに問題がある空気にとりまかれた時に理性的で的確な対処がなかなか出来ない。その結果、その対処はその空気になじむか、その空気がとりまく場を去るかといった極端な二者択一になりがちだ。

    しかし著者はきちんと空気が発生する、あるいは欠乏する現場を活写した後、それらをきちんと解説することにより、かたちなき空気を捉えている。そして言葉により醸成された空気に対し、別の言葉という成分を加えることで、いかに空気を改善できるかを提示してみせている。この例示と論説展開の分量の絶妙なバランスが本書を「役立つ本」を超えて「面白い本」にしている。一例だけ引用しよう。

    pp. 166-167
    国会の論戦の中でこれを追求した民主党の岡田克也代表(当時)に対して、小泉首相が「人生いろいろ、会社もいろいろ」と答えたのは有名な話である。
    [中略]
     この際に、岡田氏が「バカを言わないで欲しい。ワイロにもいろいろ、受け取る政治家もいろいろということか」とでも切り返して、首相が感情的になるようなことでもあれば事態は違っていたかもしれない。だが、こうした当意即妙のやりとりは起きなかった。これは、岡田氏のアタマが固いから、ということもあるかも知れないが、日本語の会話様式の中では、こうしたレトリックの駆使というのは、一方的と決まっていることに原因があるのではないだろうか。

    忙しい人は、第五章だけでも目を通しておくとよい。そこに書いてあることを実践するだけで、職場の空気はずっと風通しのよいものになるだろう。少なくとも「5分で人を育てる技術」よりはよほど使えるのは保証する。

    しかし、出来れば「つまみ読み」した後、もう一度本書をじっくり読んで欲しい。論説展開にあたって、いかに実例が役に立つかがよくわかる。実例だけでは空気の正体はわからない。さりとて論説だけでは空気は感じ取れない。書いてある内容だけではなく、書き方からも多いに学べる一冊である。

    Dan the Icebreaker