献本御礼、それも第2回モバイル勉強会の打ち上げの席で。

同時に、紹介が遅くなったことをお詫びする。なぜなら、本書は同じくマイコミ新書 から出ている「書評 - モバゲータウンがすごい理由」以上に、ケータイ世代の心証に肉薄した本であるからだ。不覚にも私は「モバゲータウンがすごい理由」故に本書評に[あとで書く]タグを付けてしまったので。

本書「大人が知らない携帯サイトの世界」もまた、「モバゲータウンがすごい理由」と同じくケータイサイトに関して考察した本なのだが、実は視点が正反対になっている。

404 Blog Not Found:書評 - モバゲータウンがすごい理由
本書、「モバゲータウンがすごい理由」は、DeNAの稼ぎ頭、モバゲータウンだけではなく、現在のケータイWebをとりまく状況を、1978年生まれの著者が解説した一冊。なぜ著者の生年まで書いたかといえば、ケータイWeb的に「あちら側」世代ぎりぎりだからだ。それより前に生まれた者は、「ふつうのWeb」的には「あちら側」でも、ケータイWeb的には「こちら側」。

このように「モバゲータウンがすごい理由」の方は、ケータイ世代入り口の著者が、あえてPC世代の視点からケータイ世代を見て書いているのに対し、本書ではケータイ世代の視点でケータイサイトを書いている。著者の年齢は本書からはわからず、もしかしたら「モバゲータウンがすごい理由」の著者よりも年長なのかも知れないが、ここでは実年齢はさほど関係ない。あくまでどこに軸足を置いているかというのがポイントだ。

その違いは、目次からも察することが出来る。少々長いがここでは章だけではなく項も紹介する。

目次 - MYCOM BOOKS - 大人が知らない携帯サイトの世界 〜PCとは全く違うもう1つのネット文化〜より
はじめに
第1章 インターネットに存在する「2つの世界」
注目される「ケータイ世代」の存在
携帯サイトで「電車男」は生まれなかった?
ネットの歴史からケータイとPCの「壁」を探る
まだ1つのネットだった「誕生期」(1999〜2000年)
iモードに革命的進化をもたらした「Internet」という項目
携帯サイトを飛躍的に成長させた「cHTML」
初期の携帯ネット文化を支えたのはPCサイト制作者
PCとケータイの離別が決定的になった「分断期」(2001〜2002年)
「メール」と「コンテンツ」でiモードが一般層にもブームに
「一般人」が一般サイトへ大量に流れ込む
キャリア間の規格争いでウェブサイト制作者が頭を悩ませる
携帯サイト離れを決定的にした「ブロードバンド化」
それぞれの環境で独自の文化が育つ「独立期」(2003〜2004年)
それでも激増する携帯サイトの利用者
コンテンツでは公式サイトが映画を極める
若年層の「情報発信」が携帯サイト文化の方向性を決定付ける
ネット界隈からお茶の間まで、PCサイトが話題の中心を握る
携帯サイトに再び注目が集まる「融合期」(2005〜2007年)
世間の話題をさらっているのは相変わらずPC
公式コンテンツに大きな変化が
3Gの普及で一般サイトが力を増す
総務省調査で判明した「ケータイがPCを上回る」という事実
両者の急速な融合で困惑やトラブルも
第2章 PCからは得られない「携帯サイト文化」
PCとは大きく異なるケータイ世代の情報発信
ブログやメルマガも取り込む「ホームページ」
ケータイ世代が求める「自己アピール」と「クリエイティブ」
地方の若者の情報発信を支えるホームページ文化
ホームページから生まれ、大ヒットした「ケータイ小説」
「ケータイで小説を書く」需要は早くから存在した
ファンからの電話がミリオンセラーへの流れを生む
タダで公開されているのにベストセラー?
ケータイ小説の主な特徴
読み手とのコミュニケーションが創作活動を支える
PC世代とケータイ世代における「リアリティ」の隔絶感
ケータイ世代の視点で読めば楽しさが見えてくる
「ケータイ発の文化」を確立していくために
「水先案内人」の世代交代
公式サイトでは絶対的存在だった「メニュー」
一般サイトにおける指標は「ランキングサイト」
大きな変化をもたらした「ウェブサイト検索」の登場
PCとはかなり異なる検索スタイル
携帯電話ゆえに起きている、ウェブサイト検索の死角
ユーザー発のコンテンツが与える影響
イラストと文字のマッシュアップから生まれる「●●画」
第3章 ケータイ世代の「コミュニティ・スタイル」
単なる自己紹介ではない「プロフ」
昔からあるサービスが突然ブレイク!?
プロフは更新するのが常識!?
「プロフ=悪」なのか?
プロフが見せているコミュニケーションスタイルの変化
ケータイ世代にそっぽを向かれていたSNS
ケータイSNSを大きく変えた「モバゲータウン」
ケータイSNSはキャリアも無視できなくなった
「個々のやりとり」から「情報共有」の手段へ
情報共有手段として定着したSNSと「メーリス」
世代によって微妙に異なるコンテンツ利用の差
SNSはケータイ世代によってどうかわっていくのか ―グリー株式会社に聞く―
第4章 インターネットの「世代間格差」
「PC世代」の誕生
「ケータイ世代」の誕生
双方が大きく変化した「iモードブーム以降」
世代によって大きく異なる携帯サイトの使い方
なぜ格差に気づかなかったのか?
PCのネット社会を支配するのはPC世代
PCではニュースにならない携帯サイト
ケータイの情報はケータイでしか得られない
受け入れられるPC文化、受け入れられないケータイ文化
増える「ケータイ=ネガティブ」論
ケータイ世代は「下流」なのか?
PC世代でも進む「群れ」化
ケータイ世代は情報発信に積極的である
「学校裏サイト」や「ネットいじめ」は特殊なのか?
異なる世代が歩み寄るためには
ケータイ世代のコミュニケーションにある背景
親密なコミュニケーションの根源は「暇」
「暇」の概念は大きく変化している
根深いデバイスの違いによる対立
「事実の認識」と「棲み分け」が解決の道筋
ケータイ世代のリテラシー向上に必要なものとは?
安易なフィルタリングはケータイ文化を殺しかねない
あと2年もすれば対立はなくなっていく ―ITmedia 岡田有花氏に聞く―
第5章 「ケータイ世代」がネット文化を席巻する日
進む「ケータイ優位」のネット社会
携帯電話はPC世代も取り込みつつある
変化しつつあるPCの存在価値
本格化するケータイ世代の社会進出
ケータイ文化が若者文化でなくなる日
日本のネットの未来はケータイにある
求められるのはケータイ世代の発想
「ナナロク世代」が示唆する「ハチロク世代」誕生の可能性
意固地にならず、ケータイ世代に飛び込んで欲しい ―ドコモ・ドットコム 村上勇一郎氏に聞く―
いま必要とされるのはPC世代の「理解」

別の言い方をすると、「モバゲータウンがすごい理由」は鳥瞰的、本書は虫瞰的ともいえる。前者が表しているのが「なにが起きている」なのに対し、本書は「なぜそうなったのか」がわかるようになっている。例えば、ケータイ小説。前著でもそれがブームとなっていることはわかる。そもそもそれがブームになっていることすら知らない人が多いからこそ前者が必要でもあるのだが、しかし前者ではそれがなぜかまではわからない。

P. 96

 ケータイ小説が女子中高生にヒットした大きな要因は、まさに「リアリティ」という言葉に表されているといえよう。先に上げたようなストーリー展開も、身の回りの日常にはないとは言い切れないという印象があるからこそ、そこにリアリティを感じ、彼女たちの共感を得るのである。[中略]

 しかしPC世代にとって、こうしたケータイ小説の内容や展開の方が、全くリアリティのない別世界のものに感じ、「ウソ臭くてばかばかしい」ものに映っているのである。

本書は上で述べた通り、「ケータイサイト」と「PCサイト」の比較文化論であるが、まさにそれ故に比較世代論にもなっている。両者の違いを知るだけなら「モバゲータウンがすごい理由」でも事足りるが、両者の気持ちを知るためには、本書も読まなければならない。さもなくば、両方の文化に首までつかってみるか。双方ともそこまで「暇」じゃない以上、互いの気持ちを知るには、本書にあたるのが現時点における最短経路のようだ。

Dan the Old Dog Thereof