良著。

大学のステイクホルダー、すなわち生徒(students)や従業員(faculty)のみならず、保護者や企業採用担当者も必携。

本著「最高学府はバカだらけ」は、現代日本の大学のバカを舌鋒鋭く指摘した本ではあるが、大学をバカにした本では決してない。ダメにはダメと歯に衣を着せずにいいつつも、イイものはイイと褒めるところは褒める、厳しいが生徒に慕われるタイプの教師のような一冊である。

目次 - 光文社発行の書籍より。
  • はじめに
  • 第一章 アホ大学のバカ学生
  • 第二章 バカ学生を生む犯人は誰か?
  • 第三章 バカ学生の生みの親はやはり大学!?
  • 第四章 大学の情報公開をめぐる二つの講演
  • 第五章 ジコチューな超難関大
  • 第六章 「崖っぷち大学」サバイバル
  • 終章 バカ学生はバカ学生のままか?
  • あとがき
  • 参考文献
  • 大学ギョーカイ用語集

著者の石渡嶺司は大学ジャーナリスト。もちろんこれは公的資格ではない。名乗ろうと思えば誰にも名乗れるタイトルであるが、それであるが故に信用を勝ち取るには名前ではなく中身が問われる。本書を見る限り、著者はその名に恥じない仕事をしているようだ。本書も大学というものを十把一絡げに扱うのではなく、個々の大学をつぶさに取材して、それぞれの特徴を実に的確に斬っている--と思う。

「と思う」というのは私は著者ほどそれぞれの大学について知っているわけではないからだ。私が生徒としての立場を経験したのは合州国の大学だけであり、日本の大学は仕事を通してしか知らない。そして仕事を通して知ったこれらの大学の様子は、まさに本書の指摘するとおりだった。私が知らない大学に関しても、それが正しそうだというのは自然な結論だろう。

本書には東大を頂点とする旧帝大や早慶上智といった有名難関大学から、「え?こんな大学あったの?」という大学まで、実に多くの大学が登場する。なにしろ本書の各ページの下には、大学ごとの一口メモがあるので、それだけで200以上の大学に触れる事ができるのだ。

本書の不満点は、留学生、そして社会人学生という、各大学が今後もっとも注力すべきであろうステークホルダーの欠如。第五章で「競争相手」としての海外の大学は登場するし、各大学において外国人の受け入れ態勢が貧弱であることは紹介されるのであるが、分量的にとても足りないし、なにより著者にこれらの「ニュータイプ」の生徒にこそ大学の活路があるのだという意識があまり感じられない。なぜ合州国の大学が圧倒的に強いかと言えば、この二つを取り込んでいるからだ。「日本の高校を修了したティーンエイジャー」という「クラシカル」ばかり見ていては、たとえ「バカ」が直ったところで立ち行かないのだ。

今後著者にお願いしたいのは、海外の取材。今や日本の大学を知るのに、日本の大学だけ見てもわからない。日本の大学250校を取材した著者の取材力は買うが、それだけに海外の大学に関する知識と経験の不足がなお目立つ。本書のオビには「レポートの答え...ネットにないっスよ」という山田玲司のマンガが登場するが、この点に関しては著者もこのマンガを笑えないのではないか。

Dan the Dropout