数多の若者論の中で、一番腑に落ちた一冊。
キャリア教育再論 (内田樹の研究室)「社会人になる」ということを単純に「金を稼ぐ」ということだと思っている人間は長期にわたって労働を続けることはできない。 そんな基本的なことを私たちは久しく忘れてきたのである。
忘れているのはおばさんおっさんたちであって、若者はそれを忘れていない。
そう本書は主張している。
本書、〈なぜ若者は「半径1m以内」で生活したがるのか?〉は、 岸本裕紀子による若者論。その 岸本裕紀子は、こんな方。 カバーより
きしもと・ゆきこ--1953年、東京都に生まれる。エッセイスト。慶応義塾大学卒業後、集英社「non-no」編集部に勤務。その後渡米し、1984年〜89年までニューヨークに滞在。ニューヨーク大学行政大学院修士課程修了。女性の人生を扱うエッセイのほか、政治・社会討論も手がける。
著書には『30代からのリスタート』(village-books+)、『もっと、モテる女たち 』(講談社文庫)、『ヒラリーとライス』(PHP新書)などがある。
一言で言うと、団塊の世代的(よりも少しだけ後だが)右肩上がり競争社会で勝ち上がってきた人の一人である。その著者が、
P. 8書きはじめの時点では、大丈夫かと心配した若者たちの「まったりとした安定志向の生き方」が、書き終えたときには「これは案外、競争社会という乱世で生き延びる知恵かな」と思えるようになったことである。若者たちは若者たちなりのやり方で、競争社会を変えて行くのかもしれない。
という立ち方で書いたのが本書である。
上の世代による若者論で、もっとも欠けていた姿勢が、これではないのだろうか。
目次- 第一章 若者の眼に映る競争社会
- 第二章 競争社会の昔と今
- 第三章 仕事と結婚はどう変わっていくか
- 第四章 「和」の世界に憧れる若者たち
- 第五章 「半径1m以内でまったり」が好きな若者たち
- 第六章 若者は競争社会をこう変える
上の世代の若者論は、若者論というよりも若者に対する説教になっているものがほとんどを占める。内田樹もその例外ではない。そして、たとえそれが「正解」だとしても、その正解のクレディットは「おれたち先輩」のものであり、若者はそれを敬えという卑しさが行間からにじみ出ている。
もしかして、正解を知っているのは実は若者たちの方であり、耳を傾けるべきは年寄の方ではないのか、というものは実に少なく、本書はまぎれもなくその数少ない一冊である。
今の若者達に必要な年寄は、こういう年寄なのではないだろうか。
とはいえ、今の若者達の行動を全肯定するのも危険だ。「半径1m以内」の生活は、今の彼らには「最適」でも、そのまま行けば彼らが年寄になったときの若者には「半径50cm以内」しか残っていない可能性だってあるのだ。もちろん若者達もそのことは肌で感じており、それ故彼ら自身が全肯定を望んでいない。
では、どうすればいいか。
彼らがライ麦畑から落ちないよう見張っている、そう、Catcher in the Ryeでいいのではないか。
「それは俺たちのライ麦畑。遊ばせてやってるんだから金よこせ」などというのは、無粋で吝嗇のきわみだ。また「ライ麦畑なのだから、ライ麦を育てるのが本来の使い方」などと説教するのもおかしい。そこで何をすればいいのかは、彼らに決めさせればいい。
そして、彼らもいずれはPlayers in the RyeからCatchers in the Ryeになる。その時に彼らが説教強盗になるのかCatchersになれるのかは、彼らがライ麦畑でどう育つかにかかっているのだろう。
その日が来るまで、誰がライ麦畑を守るのかは、言うまでもない。
Dan the Sloppy Catcher in the Rye

いえいえ、こおいう「他人を蹴落として」「実力に見合わない地位を得た」「エラソなことをいう」老人を説教する若者ですよ。別に説教でなくてもかわいがりでもいいんですがね。