「ちょいデキ!」どころか、2007年のビジネス書「一番デキ!」候補。
なぜなら、本書はすごい人がなぜすごい人かを解説した本ではなく、すごくない人がどうやってすごい人でないとやっていけないはずの業界でやっていけたかを綴った本だからだ。
本書、「ちょいデキ!」は、東証一部上場のサイボウズ株式会社社長、青野慶久の半生期と仕事術を本人が著したもの。
その「すごくなさぶり」を、著者は冒頭で早速明らかにする。
P. 10渡邊社長の手帳術は、私にとって、まさに"北斗神拳"でした。身につけたいけれど、身につけることはできない。手の届かない技でした。
その代わりに、著者が提案するのが、"太極拳"。
P. 11"北斗神拳"など、とうていあやつれない私が、企業をなんとか引っ張っているのはなぜだろうと考えたとき、もっと簡単な技を駆使している時分に気づきました。それは、"北斗神拳"とは対照的な、誰でもいつでも簡単に取り組める"太極拳"といううたとえがぴったりなものです。
その"太極拳"を駆使して「ちょいデキになろう!」というのが本書の狙いである。
そのちょいデキぶりは、目次を見るだけで伺える。
目次- 第一章 大企業に溶け込めず、起業へ
- 第二章 こんな私でも何とかやってます
- 第三章 Q&A 基礎編
- 大きな目標を立てていませんか?
- 拡大「解釈」していませんか?
- 準備を頑張っていませんか?
- デキる社員はすぐやると思っていませんか?
- 裏技は反則だと思っていませんか?
- モチベーションを探していませんか?
- 言いたいことを我慢していませんか?
- 仕事とプライベートを無理に分けていませんか?
- やりたいことを探していませんか?
- 「失敗」を深く考えていませんか?
- 自分のことに必死になっていませんか?
- 第四章 Q&A 役に立つ実践編
- 話すことをあきらめられますか?
- 話す「姿勢」で勝負していますか?
- 自分をよく見せようとしていませんか?
- 難しい質問に答えていませんか?
- つくり笑顔ができますか?
- 誰とでも仲良くなろうとしていませんか?
- 「絶対」という言葉を使っていませんか?
- メールで顔文字を使ってますか?
- 足で情報を稼いでいますか?
- ものを覚えようとしていませんか?
- 怒られたら降伏できますか?
- 悪口に対抗していませんか?
- 苦手な相手を避けていませんか?
- 部下を自由に働かせていませんか?
- 集中するための「引き出し」を、持っていますか
- 第五章 Q&A ビジネス情報収集術編
- 読書より経験が大事と思っていませんか?
- 本を全部読んでいませんか?
- 本を読みっ放しにしていませんか?
- 本を自分で選んでいませんか?
- 若いビジネスパーソンに薦める5冊
- 松下幸之助さんに学ぼう
- 新聞のスポーツ欄を飛ばしていませんか?
- 苦しんで英語の勉強をしていませんか?
- テレビを見ていますか?
- ネットサーフィンにはまっていませんか?
- グループウェアで情報収集してますか?
- 私がはまったアナログ手帳とは?
- 名詞を整理してませんか?
- 株への投資を敬遠してませんか?
- 人脈が何より大事と思っていませんか?
- 第六章 Q&A 健康管理編
- 体の弱点から逃げ切れますか?
- 風邪をひくのが当たり前と思ってませんか?
- 朝、寝坊してませんか?
- 夜眠れずに困ってませんか?
- 夏バテの対処法を持ってますか?
- 残業しないコツ、知っていますか?
- 自分の体と会話できてますか?
- 第七章 では、現場へ「行ってらっしゃい!」
その技の一つ一つが、誰にでもできて、しかし誰にでも見つけられるとは限らないというコロンブスの卵的なものばかり。平凡であることを知悉し、平凡でも使える技を、平凡でも理解できるよう伝授するというのは、いやいやどうして、"北斗神拳"ではないというけれど、ケンシロウの兄トキのように非凡かつ貴重な才能なのではないか。
ビジネス書の多くは、実のところ「スーパーモデルのダイエット」のようなもので、「読ませ」はするけど「使えない」。ほとんどの人はこれらの本を実践できるほどの基礎がないし、そのまま実践したらけがをするものも多い。ものによっては本気で「よいこは真似しないでね」とまえがきしろ、と突っ込みたくなるものもある。
本書は違う。本書はいわばふつうの人が無理なくダイエットできる本なのだ。その点で「いつまでもデブと思うなよ」に通じるところがあるが、しかしどうみても地球人よりはサイヤ人とかナメック星人に近そうな(失礼!)岡田斗司夫よりも、本書の青野社長の方が「地球人度」は高い分、「ふつうに使える度」は本書の方が一段上のように思われる。
本書を呼んでもスカウターを吹っ切って壊すことは無理だろう。しかし100を120にすることは充分できる。
他のビジネス本が交感神経を(時に過度に)刺激する「アオリ系」だとしたら、本書は副交感神経に訴える「癒し系」。ありそうでなかった、実は「すごい人々」にも役立つ一冊である。
と、普通ならここで書評が終わるのであるが、青野社長のblogの以下の下りに対して何言か申し上げたい。
サイボウズ青野の3日ボウズ日記: ちょいデキ!本については、「そのタイトルのつけ方はどうよ」とか、「たいして仕事ができないやつが仕事術の本を書いてどうする」とか、「そもそも本を書いている場合か」とか、つっこみどころ満載ですが、サイボウズにとっての新しいPR手法になると思いチャレンジしました。
そう。本書は「by 青野慶久」であるが、「for サイボウズ」でもある。ということは、本書は会社の構成員たる従業員のみならず、会社という組織体にも「効く薬」である必要があるということだ。前者の成分に関しては薬効あらかたな本書だが、後者という点に関しては不満も残る。
たとえば、宣伝。サイボウズ株式会社 書籍紹介 - 『 ちょいデキ!』と会社ページで紹介するのはいいが、目次が略記されている。これは全記した方がよい。おかげで上の目次の入力を手でやる羽目になった、というのはさておき、目次を含めたメタデータの充実度が、Webにおけるプレゼンスをどれだけ左右するかというのを同社が知らないはずがないのだが。
ただでさえ文春新書というのはWebにおけるプレゼンスが弱く、編集部まかせでいいとは言いがたい。例外は佐々木俊尚だが、これは彼自身の努力によるものであり、例外というより学ぶべき事例と言える。
2007年9月20日発行の本書が、書評ブロガー(私を含む)に献本されていない(らしい)というのもまた疑問だ。「本を自分で選んでいませんか?」という項目があるにも関わらず、選ぶ人たちに配慮に欠いていることはなはだしいのではないか。
そして、会社。たしかにちょいデキ社員が増えることにより、会社の能力は高まる。しかし能力100の社員を能力120にしただけでは会社としては駄目なのだ。従業員の能力を120にした上で、さらに会社の能力を144にするぐらいでないと。それはサイボウズの原点かつ主力商品ではなかったのか。
その意味で、本書には一章、「Q&A 協働編」が抜け落ちている。実はそれこそ読みたかったのだが。もしかして、そのためにもう一冊別にお出しするつもりだろうか。そうであることを期待したい。その際にはブロガーを活用することもお忘れなく:-)
Dan the (Blogger|Book Reviewer)
たしかにタイトルだけだと内容があまり想像つかないので、
目次がWEB上などの目に付くところにあったほうが
サイボウズをよく知らない人でも興味をもちやすいと思います。
帯の絵もちょっと気を引きますがw
「著書」というところのリンク先↓
http://cybozu.co.jp/company/books/
に目次の一部がありましたけど、できたらぜんぶのほうが
さらに読んでみたくなりますね♪
これはおもしろそう。読んでみます。