実に面白かった。

と同時に、本書の示唆する未来--日本、だけではなく人類の未来--に、軽い寒気を禁じ得なかった。

本書、「人口学への招待」は、副題に「少子・高齢化はどこまで解明されたか」とあるとおり、人口動態を分析するための科学、すなわち人口学の本。この人口学、現時点においては psychohistory に最も近い学問なのではないか。

目次
  • 序章 - 人口問題 -- 急増から激減へ
  • 第1章 人口学の基礎
  • 第2章 生命表とその応用
  • 第3章 少子化をめぐる人口学
  • 第4章 人口転換 -- 「多産多死」から「少産少死」へ
  • 第5章 生殖力と出生率 -- 生物的・行動的「近接要因」
  • 第6章 結婚の人口学 -- 非婚・晩婚という日本的危機
  • 第7章 出生率低下と戦後社会 -- 五つの社会経済学的理論
  • 第8章 出生率の予測 -- 可能性と限界
  • 第9章 将来の人口統計 -- 未来をよむ人口学
  • 終章 人口減少社会は喜ばしいか

この人口学に関する話題は、本blogでも何度も取り上げており、それぞれかなりの人気コンテンツである。本blogの定期購読者であれば、絶対に得るところのある一冊と言えよう

本書の鋭いところは、少子高齢化を単に「世代の問題」として捉えるだけではなく、「男女の問題」としても捉えていること。たとえば、こんな下りが出てくる

P. 175
ここで興味を惹くのは、結婚相手に対して求める条件が男女で大きく異なり、国際的にその条件がよく似通っていることである。バスが明らかにしたのは、国や文化を超えて男性は女性の若さと美貌を望むのに対して、女性は男性の容貌よりも男性の経済力、甲斐性、将来性を重視する。

さらに避妊や人工中絶といった、個(すなわちミクロ)のレヴェルではセンシティブなゆえ敬遠されがちな話題も遠慮なく扱っている。これらを抜きにして人口学は語れないからだ。

グラフや統計も実に充実していて、「読む本」としてだけではなく「使う本」としても優れている。数式を巻末にのせている点も評価できる。

それにしても、中公新書は本書のような私好みの歯ごたえがある良著が多いのに、Web上のプレゼンスの低さったらありゃしない。おかげで目次も手入力で書評も書きにくいわ、そもそもそういう本が出ているということを見落としたりするわで、もう少し今時の読者というものを考えて欲しいと思わずにはいられない。目録がPDFというのに至っては、政府にすら遅れをとっているではないか。

本書を読まずして今後少子高齢化を語るべからずといっても過言ではない一冊。

Dan the Cohort of 1969

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