いつもどおり献本御礼。

初掲載2007.11.05;発売開始まで更新

一回で書評し切れる本ではないが、これだけは最初に申し上げたい。

これは褒めざるを得ない、と。

本書、「ウェブ時代をゆく」は、今や「ウェブ進化論」の著者として「あちら側」も「こちら側」も知らぬなしの梅田望夫の最新作にして、「シリコンバレーに住む一コンサルタント」だった著者が、はじめて「梅田望夫」を全面に出して書いた一冊。

なぜ「褒めざるを得ないか」といえば、100%それが理由だ。

目次 - 新刊「ウェブ時代をゆく」11月6日刊行 - My Life Between Silicon Valley and Japanより
序章 混沌として面白い時代
一身にして二生を経る/オプティミズムを貫く理由/「群衆の叡智」元年/グーグルと「産業革命前夜」のイギリス/学習の高速道路と大渋滞/ウェブ進化と「好きを貫く」精神/リアルとネットの境界領域に可能性/フロンティアを前にしたときの精神的な構え
第一章 グーグルと「もうひとつの地球」
営利企業であることの矛盾/グーグルはなぜこんなに儲かるのか/奇跡的な組み合わせ/グーグルの二つ目の顔/「もうひとつの地球」構築の方程式/「経済のゲーム」より「知と情報のゲーム」/利便性と自由の代償としての強さを
第二章 新しいリーダーシップ
人はなぜ働くのか/まつもとゆきひろが起こした「小さな奇跡」/オープンソース成功の裏には「人生をうずめている人」あり/ウェブ2・0時代の新しいリーダー像/ウィキペディアのリーダーシップ/「知と情報のゲーム」と「経済のゲーム」の間に起きる齟齬/事業機会を失ってもコミュニティの「信頼」を/なぜネットでは「好きなことへの没頭」が続けられるのか/良きリーダーの周囲に良き「島宇宙」ができる/総表現社会参加者層の台頭
第三章 「高速道路」と「けものみち」
高速道路を猛スピードで走る少女/日本のシステムで息苦しい思いをしている人のために/「高く険しい道」をゆくには/「見晴らしのいい場所」に行け/高速道路を降りて「けものみち」を歩く/「五百枚入る名刺ホルダー」を用意しよう/「流しそうめん」型情報処理、つながった脳、働き者の時代/「けものみち力」とは/正しいときに正しい場所にいる
第四章 ロールモデル思考法
ロールモデル思考法とは何か/なぜ「経営コンサルティング」の世界に進んだか/ロールモデルの引き出しをあける/「十九世紀初頭の新聞小説」とブログ/日本の若者を応援するときのロールモデル/自分の志向性を細かく定義するプロセス/ブログと褒める思考法/生きるために水を飲むような読書、パーソナル・カミオカンデ/行動に結び付けてこそのロールモデル思考法
第五章 手ぶらの知的生産
知のゴールデンエイジ/世界中の講義・講演を瞬時に共有できる時代/十年後には「人類の過去の叡智」に誰もが自由にアクセスできる/手ぶらの知的生活/これからの知的生活には資産より時間/ネットは知恵を預けると利子をつけて返す銀行/「文系のオープンソースの道具」が欲しい/群衆の叡智を味方につける勉強法/ネット空間の日本語圏を知的に豊穣なものに
第六章 大組織VS.小組織
情報共有と信頼/やりたいと思う仕事に自発的に取り組む/情報共有と結果志向型実力主義/有事には情報共有を前提とした組織になる/小さな組織は情報共有で強靭になれる/小さな会社で働き、少しでもいい場所に移ろう/「三十歳から四十五歳」という大切な時期を無自覚に過ごすな/自らの内部にカサンドラを持て/「古い価値観」に過剰適応してはいけない
第七章 新しい職業
「新しい職業」と「古い職業」/「新しい職業」の誕生を信じる人は「ウェブ・リテラシー」を/オープンソースが生んだ新しい「雇用のかたち」/「志向性の共同体」とスモールビジネスの経営/スモールビジネスとベンチャー/ビル・ゲイツの後半生を徹底肯定する/世界の難題の解決にネットが本格的に利用される時代
終章 ウェブは自ら助くる者を助く
人工国家に似た「もうひとつの地球」ができれば/より求められる「自助の精神」/サバイバル優先、すべては実力をつけてから
あとがき

「ウェブ進化論」当時は、梅田望夫という人物は「あちら側」、すなわちネットの住民には比較的よく知られた存在ではあったが、「こちら側」、すなわちリアルの住民にはまだ知られた存在とまでは言えなかった。そのこともあってか、「ウェブ進化論」は個の重要性を説いてはいても、梅田望夫という個よりは、「論者のうちの一人」をずいぶん引きずっていたと思う。

しかし、「ウェブ進化論」の大ヒットにより、もはや梅田望夫は「コンサルタント」とか「はてなの取締役」だとかといった「皮」をかぶる必要はなくなった。その皮を完全に脱ぎ捨てて書いたのが本書である。これを褒めずにいられるだろうか。

その差が最も顕著なのが、第四章の「ロールモデル思考法」であろう。ここで著者は、自らをロールモデルの一つとして提示する。一コンサルタントとして振る舞っていた著者にとって、それがどれだけ気恥ずかしいものかというのは、私のような羞恥心が辞書登録されていない輩でも察することができる。早い話、本書において梅田望夫ははじめて「ヌード」となったのである。

「ヌード」はハイリスクな戦略である。自分を守ってくれる殻がそこにはないのだから。そこにおいて他者からの視線は直に素肌に突き刺さる。これは、いたい。

しかし「ヌード」戦略は、それを補ってあまりある。ハイリターンな戦略でもある。読者は著者の意図を絹ごしに察するのではなく、直に目にすることができるのだから。

とはいうものの、ヌード戦略を取るには、それに耐えられるだけの「蓄積」が必要で、著者にとっては「ウェブ進化論」とそれに続く一連の著書、そして「ウェブ進化論」から今に至るまでのblog entriesがそれに相当するのだろう。著者は「サバイバル」を重要視する人でもある。はじめから「脱いで」風邪を引くようなリスクの取り方はしないし出来ない。

そういう人が、「脱いだ」のである。その内容はさておき、その勇気を「裸族」の一人として讃えたい。

もちろん意見、見解、分析、結論に対する異論は山ほどある。それだけで100 entriesぐらい書けるだろうし、本書がある程度皆に行き渡ったところで私はそうするつもりだ。

しかし、これだけは言える。今後は重い服をまとって身動きが取れないリスクの方が、服によって護られるリターンより大きくなる時代だということが。この点に関して、私は著者に120%同感する。そして、そのことを知っていても、「ウェブ進化論」当時は実行しきれなかった著者が、本書に至ってそれを敢行したことを、褒めずにはいられない。

はだかの個の世界へ、ようこそ。

dankogai (小飼 弾)