イメージを形にできないものに産業の名は値しない。IT産業はイメージの具現化がすべてである。人気を魅力と勘違いする人は減衰する。

ユメのチカラ: 若い人に人気のない産業は減衰する
未来をイメージできない産業に人は集まらない。IT産業は人がすべてである。魅力のない産業は減衰する。
ユメのチカラ: 若い人に人気のない産業は減衰する
参加者がすごい。業界の重鎮。岡本晋氏(TIS株式会社 代表取締役社長)、浜口友一氏(社団法人情報サービス産業協会 会長、株式会社NTTデータ 取締役相談役)、藤原武平太氏(IPA 理事長)。

大変恐縮なのだが、私はこの参加者のすごさが全く理解できなかった。なぜ業界の重鎮なのかさらに理解できなかった。「IPAフォーラム2007:プログラム(詳細)」を見たら、それがますますわからなくなった。

なぜなら、彼ら「業界の重鎮」たちが、何を作ったのか、そこには全く書かれていないから。

彼らは、確かに「業界大手企業」や「業界団体」の「えらい人々」ではある。しかし、彼らを別の誰かに置き換えたらヤバイという感じが全くしないのだ。社内人事のあやで別の誰かが彼らが座る椅子に座っていても、それでその企業が別物になるというようにはとても見えないのだ。

もちろんそれは私が彼らの作ったものを知らないだけなのかも知れない。もしそうだとしたら、具体的に彼らが何を作ったのか教えてほしい。

これが、例えばLarry Wallやまつもとゆきひろなら、私にも「すごい」がわかる。Larry Wall以外がPerlを作るなど想像もできないし、RubyがRubyなのは、まつもとゆきひろがまつもとゆきひろだからだ。

ユメのチカラ: 若い人に人気のない産業は減衰する
IT産業のイメージに対して、『岡本氏は「モノをつくっている会社は、イメージがモノで通じている。われわれの業界はモノを作るといってもソフトウェア、もしくはサービスを提供している。目に見えてイメージはわかないかもしれない。インターンなどで実態を見てからもう1度考えていただければいい」と学生を諭した。』と答えているようであるが、業界の重鎮が明確にビジョンを語れなくては困る。

本当の業界の重鎮たるあなたが、業界の文鎮たちを重鎮と呼んでいる方がよっぽど困る。ビジョンを語るのは文鎮の仕事じゃない。あなたの仕事である。

ここまでが、よしおかさん宛。ここからが「若人」宛。

聞いたことがあるだろうか。「東大生がこぞって入社する産業は衰退する」という都市伝説を。人気産業ということは、あくまで「今人気」ということであって、何の将来も保証しない。日本が右肩上がりの時だって、「人気産業」は10年ごとぐらいに入れ替わってきた。残念ながら今日日の人気産業を選んでも、あなたが中年になっている頃には斜陽産業になっている可能性が高い。高値づかみする人がいるから株式市場が成り立つとはいえ、最も賢いはずの人々が最高値で買ってしまうというのは苦笑を通り越して同情すら覚える。

もちろん今の東大がそれを指をくわえて見ているわけではないのは知っているけど、それはとりえずさておき。

ところが、職人はどの産業が興亡してもやっていける。客は代わっても職は代わらないのだ。製造業のような、一見産業と心中しそうな職ですら、岡野雅行のように生きられるのだし、ましてやソフトウェアエンジニアというのは、およそ職人の中で最もつぶしが利くものの一つだ。ありとあらゆる道具がハードウェア直接のロジックではなくソフトウェアを経由して動くようになりつつある現在、職にあぶれるということはまずありえない。

確かに、きつい。どうきつい、どうしてきついかはまた別entryで書くが、職人の世界というのはどこもかしこもそうだ。しかし、おなじきついでも、それは自分が鍛え上がっていく時のきつさであって、今日も明日も同じきつさの繰り返しでは決してない。もしそうだとしたら、それは職人以外の何かが混じっている証拠だ。そういう時には躊躇せず職場を変えること。

しかしきついから逃げないで職に打ち込んでいると、ある日気がつくのである。自分がどれだけ鍛えられているかを。こりゃ堪らんよ。堪えられないよ。こいつは残念ながらどこにも売っていない。職人が作ったものなら金だせば買えるけど、自分でつくれなかったものがつくれるようになった時の気持ちは、どこにも売ってないんだぜ?

残念ながら、誰もが職人になれるわけではない。IT産業もそれは同じ。でももし君がそれに魅せられて、あの堪えられない気持ちの味を知ってしまったのであれば、匠に弟子入りしてみる価値はある。ましてやIT産業だ。技術は一子相伝門外不出なんてことはないし、何人もの匠に同時に弟子入りすることだって無理なくできる。

人気企業とやらに逝くのは、そのあとでいい。なに、そんな難しくない。正社員にこだわりさえしなければ。

Dan the Codesmith