講談社ビジネス出版部の広部氏より献本御礼。

この手があったか!

本書「ファンクション7」は、ダイヤモンド経済小説大賞受賞の元記者にして作家が、韓半島統一シナリオの可能性をフィクションの形で提示した一冊。そういうとフィクションの皮をかぶったノンフィクションのようであり、ノンフィクションの書評が圧倒的に多い私に、ビジネス出版部から献本があったことがそれに輪をかけているが、しかし本書は「シナリオを読ませる」本ではなく「ストーリーの意外性を楽しむ」という点において、「ふつう」のノンフィクションである。

ただし、エンタテイメントとして見ると、きわめて難しい主人公を選んでいる。その名はイ・スーフン。 半世紀前、朝鮮戦争で妹と生き別れた韓国のITメーカー会長。これは日本という本書の市場を考えるとかなり「向かい風」のきつい設定だ。70代の男、それも韓国人というのは、架空戦記モノだったらむしろ敵になりそうだし、ラノベだったら登場すら考えられない。

しかし本書にリアリティを持たせるためには、この設定は絶対に必要なのだ。

なぜか?

本書のキラーアイテムが、ケータイだからだ。

エクスカリバーを持つのがアーサー王でなければならないように、このケータイを持つのは、半世紀前、朝鮮戦争で妹と生き別れた韓国のITメーカー会長であるイ・スーフンでなければならない。設定上の時代がもっと未来であれば、もっと「現実離れ」している代わりにもっと日本人ウケしそうな主人公を持ってくることも出来ただろうが、本書の設定が現代、それも21世紀初頭とかというおぼろげな現代ではなくどう見ても今日明日という現代である以上、実際にこのケータイを作らせるだけの「力」と「訳」がある主人公を描けば、それはどうしてもイ・スーフンになってしまう。

それでも、著者が主人公の設定をこれだけ不利にするだけの魅力が、本書のプロットにはある。まず、韓半島統一というテーマそのものが魅力的だ。そしてそれを「経済的」にやる以上、日本人の読者に充分アピールするだけの日本を登場させることが出来る。そしてテーマがテーマゆえ、中国と合州国も自然に登場する。実に自然に「六カ国競技」が成立するのだ。

もちろん主人公の設定以外にも難点は実は結構ある。そもそも本書のプロットが本当に成り立つほど、現実の「北」が「まぬけ」かというとかなり疑問ではある。経済的には北は阿呆もいいところだが、軍事的、外交的にそうかといえば正反対。ソ連と東欧が崩壊して中国が資本主義国となった今でも「サバイブ」しているという事実を私としては過小評価できない。私でさえこのやり方の無効化法はいくつも思いついた。

ディテールにも、細かいが見過ごせない過誤がある。「短銃」というのは朝日新聞ぐらいしか用いない表現だし、F-22ステルス爆撃機はありえない。一応FB-22の計画はあることにはあるが、本書の設定には間に合わない。

そうした不利や欠点を見てもなお、本書のストーリーテリングにはページをめくらせ続けるだけの魅力がある。ツッコミどころは多いが、そのツッコミをかわし切って最後のページまでめくらせる力が本書にはある。韓半島モノのフィクションは数あれど、ほとんどが政治的ないし軍事的なプロットばかりで、経済的なプロットを提示しただけでも本書には価値がある。

ケータイは剣より強し、か。

Dan the Man @ the Furthest East