築地書館より、「本が好き!(β)」経由で指名献本御礼。
本blogの書評を楽しまれている方なら、ほぼ間違いなく楽しめる一冊。
本書「オタクコミュニスト超絶マンガ評論」は、オタクでコミュニストな書評サイト、紙屋研究所の書評の中から、選りすぐりのものを集めて一冊の本としてまとめたもの。収録作品は目次の通りである。なお、目次中のリンクはAmazon直結。私が書評した本も少なくないので出来ればそこへのリンクにしたかったのだが、半自動でやったのでこれでとりあえずご勘弁を。
目次 - オタクコミュニスト超絶マンガ評論より- オタク-永遠に終わらない夏休み
- 恋愛とセックス--ぼくの脳の8割くらいを占める関心事
- 仕事--働くとは面白いことかつらいことか
- 結婚・子育て--生活と家族が生成する
- 実家・学校時代--自分の根拠をみつめる
- 戦争と政治--無関心といわれても
著者紹介
見てのとおり、本書のメインはマンガではあるものの、それ以外のものもかなりある。それが「埋め草」ではないことは、「紙屋研究所」のページを見ていただければわかる。本書で取り上げらたのは、紙屋研究所の一部に過ぎない。
それではなぜ「超絶マンガ評論」なのに「非マンガ」があるのか?
書評には二種類のタイプがある。本そのものの紹介と、本を用いた自説の展開と。著者は明らかに後者のタイプ。だから自説を展開するのに必要であれば、マンガ以外のものも取り上げる。
実のところ、私も根は後者のタイプである。しかし紹介する本が増えるにつれ、前者のタイプの書評も増えて来た。本を用いた自説の展開の場合、読者はすでにその本を読了しているか、少なくとも斜め読みぐらいしていることが前提になる。そういう記事は既読の読者により強い印象を与える一方、未読の読者には疎外感を与えずにいられない。
書評にはそういった側面もあるので、書評をさらに本にするのはなかなか難しい。その時点でその本の潜在顧客数がぐっと少なくなるからだ。しかし、その少数の潜在顧客には、それはたまらない魅力ともなりうる一方、本読みは著者に対して一種のライバル感情を抱くので、中身が薄い場合には「ふつうの本」以上にネガティブに評価されてしまう。
私自身「本を書け」というオファーは少なからず受けるし、実際いくつかは現在進行形であるし、さらにそのうちの一部は本blogを積極的に利用して執筆を勧めているが、今のところ本blogの名物の一つである書評の書籍化は考えていない。書籍化するよりも広告媒体として利用した方が売れるという、資本主義の豚にふさわしい理由もあるが、それ以上に「読書家は他の読書家に対して厳しい」ことを痛感しているのがその理由である。ちなみに「今日の早川さん」は、そのことそのものがメインのネタである。
書評本というのは、よほどの技量があるか、あるいは逆にすでに名声を確立している作家が居酒屋のツキダシ的にやるかのいずれかでないとうまく行かない、非常に難しいジャンルなのである。
本書は、その難しい課題に果敢に挑戦し、そして見事に成功している。著者の紙屋高雪に脱帽である。挿絵(あえてイラストとは呼ばない)を担当した「るるてん」のきあのマンガも、またいい。カタくムサクルシくなりがちなオタクでコミュニストな文章も、そのおかげでずいぶんとリラックスして読める。
とはいうものの、本書は書評本。ある程度の読書量がないと楽しみにくいというのは致し方がない。逆に本書を楽しめるかどうかと言うのは、読書家としての自分を測るメソッドとしても利用できる。目次にある本の1/3あたりがその分水嶺だろうか。この値が低めなのは、著者の技量の高さの傍証でもある。
本好きを自称される方は、是非お試しあれ。
Dan the Bookworm
オタクコミュニスト超絶マンガ評論
- 紙屋 高雪、きあ
- 築地書館
- 1890円
書評/サブカルチャー
映画の吹き替えに猛烈に違和感を感じる人と同じですかね。
私は後者だと思っています。