ハードカバーということで買うのが後回し後回しになってしまったが、もっと早く読んでおくべきだった一冊。
ただし、読むのが実に辛い一冊でもある。まるで本書を読むことが、仮釈放無し終身刑の受刑者として、出口のない監獄に入っていくような、そんな気分になる一冊でもある。
本書「累犯障害者」は、元国会議員が、塀の中で見つけて本書で紹介するまで、「無前科健常者」に知られていなかった、「生きていくためにあえて堀の中を選ぶ」障害者たちの実態を淡々と語った本。
目次- 序章 安住の地は刑務所だった - 下関駅放火事件
- 第1章 レッサーパンダ帽の男 - 浅草・女子短大生刺殺事件
- 第2章 障害者を食い物にする人々 - 宇都宮・誤認逮捕事件
- 第3章 生きがいはセックス - 売春する知的障害女性たち
- 第4章 閉鎖社会の犯罪 - 浜松・ろうあ者不倫殺人事件
- 第5章 ろうあ者暴力団 - 「仲間」を狙いうちする障害者たち
- 終章 行き着く先はどこに - 福祉・刑務所・裁判所の問題点
しかし、見ないふりをしても、問題は厳然として存在している。本来、障害者のケアは福祉の領域の問題だ。だが、福祉からこぼれた障害者のなかには犯罪に手を染めて刑務所によってケアされる者が少なからずいるというのである。
しかし見てしまったら、解決策がすんなると出てくるかといえばそうでないところに、本書の重苦しさがある。そう。返す言葉が見つからないのだ。自分が健常者という名の偽善者であることを、いやでも思い知らされるのである。
P. 121「そうよ人間よ。でもね、あたしらみたいな障害者はね、好きな人ができて本気で付き合っても、すぐにバカがばれて捨てられちゃうの。どうせ齋藤先生だって、山本さん[著者]だって、あたしのこと、女としてみてくれてないでしょ」
そう言われると、返す言葉が見つからない。
本書を読解するだけの知能を持つ者は、本書の前では等しく著者と同様、返す言葉が見つからない幸運な偽善者となってしまうようだ。
「でも、あたしを抱いてくれた男の人は、みんなやさしかった」
この「やさしかった」はずの者の多くもまた、実は彼女のような境遇のものたちを搾取する者であることが後ろの章で明らかにされるのだが、彼女ら彼らを「なかったもの」として扱って来た我々に、累犯障害者たちやさらに彼らにとりついてたかるさらに別の障害者たちを断罪する資格があるのだろうかという気持ちが強くわき起こってくる。
もちろん、我々に何も出来ないか、というとそんなことはない。例えば彼ら累犯障害者たちを「本当になかった」ことにすることも可能ではあるし、実際にそういう動きもあった。つい最近まで、「優生保護法」という名の法律すらあったのだ。これは裏を返せば「劣生排除法」で、そのとおりの運用もなされてきた。
しかし我々がそれを選ばなかった以上は、対案が必要である。そしてその対案を放置してきたことが、「劣るだけ」であったはずの彼らを犯罪へと走らせる。その意味で、彼らは自らの罪だけではなく、社会の罪をも負わされているだ。
それでも「犯罪者は犯罪者。障害者だからといって掌を加えるというのは間違っている」というのも充分説得力がある正論だ。著者もまたその立場をとっている。障害者を免責事項にしてしまえば、障害者を偽るものも出てくる。このあたりの事情は 「そして殺人者は野に放たれる」にも出てくるので、併せて読んでおきたい。それでも、この正論をもってしても「返す言葉のない人たち」が残る。それが、累犯障害者の家族だ。
「レッサーパンダ帽の男」の妹は、知的障害者である父と、この事件の犯人である兄の面倒を見続けたあげく、末期がんに倒れる。ボランティア団体、共生舍に「発見」されるまで、福祉や社会が彼女に手を貸すことはついになかった。
p. 47「病院では死にたくない。最後に少しだけでもいいから、一人暮らしをしてみたい」
これが山口被告の妹が抱く唯一の夢だった。ところが、レッサーパンダ事件から七ヶ月後、彼女は入浴中に卒倒し、病院に担ぎ込まれてしまう。そして、そのまま入院。余命一ヶ月半を宣告された。
それでも彼女は、共生舍の尽力により、この最後にして唯一の願いを叶えてからこの世を去った。全国には、誰にもみとられないまま、誰かを看取るだけの一生を送って来た人々がどれだけいるのかと想像すると慄然とする。
返す言葉は、ない。しかしそこから目を背けることは、もし自分が彼女のような境遇に陥っても、社会に助けを求めてはならないということも意味するのだと思う。そういう社会において、社会の規範を守るインセンティブとは一体なんなのだろうか。
福祉というのは、結局のところ、「かわいそうな誰か」を助けることではなく、「いつ不幸になってもおかしくない自分たち」を助けるために存在するのではないか。そうでなければ、わざわざ社会に参加し、その費用を負担する理由もまたなくなってしまうのだ。
少なくとも、私は本書から目を背けてはならない程度には社会から恩恵を受けている。そう思う方は、是非目を通して欲しい。そしてそういう人々に本書を行き渡らせるためにも、なるべく早く文庫化してほしい。
Dan the Lucky One

この本はすごく価値のある一冊ですよね!
あとがきにもありましたけど「山本さん! よくぞ服役してくださいました」です。
ところで「心にナイフをしのばせて」も読まれましたか?
私はあの本は評価してません。