DOJIN選書、いずれも良作ぞろいでどれが一番面白いかと言われると甲乙付けがたいが、最も役に立つといえばこれになるだろう。

選書は新書に比べて高いので買うのにも躊躇するのだが、これなら安心して薦められる。

本書「ヒューマンエラーを防ぐ知恵」は、失敗防止学の教科書。著者は、はてなブックマークで史上最多ブックマークを誇る東大で学んだ卒論の書き方★論文の書き方http://b.hatena.ne.jp/entry/image/http://staff.aist.go.jp/toru-nakata/sotsuron.htmlを書いた人である。著者はよほど嬉しかったのか、著者紹介でこのことを取り上げている。

  • 第1章 ヒューマンエラーとは何か
  • 第2章 なぜ事故は起こるのか
  • 第3章 ヒューマンエラー解決法
  • 第4章 事故が起こる前に……ヒューマンエラー防止法
  • 第5章 実践 ヒューマンエラー防止活動
  • 第6章 あなただったらどう考えますか
  • 第7章 学びとヒューマンエラー
  • 本書は失敗学ともかなり重なるが、違いもある。「失敗は予測できる」をはじめとする「失敗学本」は、まず「失敗から学ぶ」ということで、実際におきた失敗を重視しているが、本書の場合、それを防ぐにはどうしたらよいかというのが焦点。失敗学を「科学」とすると、本書のそれは「工学」ということになる。

    圧巻なのは、第6章。本書は教科書だけあって、ちゃんと問題も用意されているのだ。例えばこんな感じ。

    P. 156

    ネット上の売買で、「パソコン一台一円」や「一株一円で売り」といった価格の入力まちがいが起こります。

    こうした値段の打ち間違いを防ぐ方法を考えてください。

    また、本当に一円で売りたい場合、あなたの考えた方法で対処できますか?

    私が考えた方法は、著者の考えとは違うのだけれども(著者のそれよりも上策だと思うが、私の回答は別entryにて。TB/Comment募集中)、大事なのは、正解を出すことではなく不正解を防ぐことであり、そのためには常に「うまく行かない場合は、どううまく行かないか」を考えて続けていかなければならない。本書を読んでわかるのは、「失敗防止学に王道はないのだな」、ということだ。

    それにしても、著者の論考は非常に追いやすい。著者にしても 岡嶋裕史 にしても、私より少し後に生まれた団塊ジュニア著者たちの書いた本というのは、完結で論理的なものが多い。このあたりは親の世代とは比較にならないぐらいよくなっている。「日本語は論理的でない」といった昔の人に改めて見せつけてやりたいぐらいだ。

    "To err is human"、「失敗するのが人間だ」というのは、私も好きでよく使う言葉だが、これには"to forgive, divine"、「赦せるのは神のみ」と続く。赦せないなら防ぐしかない。本書を常備薬として推す次第である。

    Dan the Man to Err