平凡社より献本御礼。にも関わらず書評が超遅くなってしまって申し訳ない。
しかし結果として、書評が遅くてよかったと今では思っている。
なぜなら、本書は最終章を除けば実によい本であり、それゆえ多くの人に読んでもらう価値がある一方、最終章が「20世紀」すぎて私としては納得が行かず、故に私からは勧めづらい本だったからだ。
本書「21世紀の国富論」は、スーツを纏ったギークである著者が、日本はこれからどこを目指すべきなのかを語った本。
目次 - Amazonより- はじめに
- 表舞台を去る「パソコン時代」の主役たち/ネットバブルはなぜ崩壊したのか?/アメリカに理想のガバナンスはない/市場万能主義は破綻しかけている/コンピュータを中心としたIT産業の終わり……ほか
- 第1章 新しい資本主義のルールをつくる
- ベンチャーキャピタルは死んだ/リストラとIRに奔走する経営者/ROEを株価に結びつけるのはたんなる流行/「企業は株主のもの」は間違い/公開企業のストックオプションは廃止すべき/「モノ言う株主」の言い分は矛盾している/ヘッジファンドを規制せよ/三角合併の何が問題か?……ほか
- 第2章 新しい技術がつくる新しい産業
- IT産業は、「脱工業化」でもサービス産業でもない/サービス業を成り立たせているのは技術/機械が人間に合わせる時代の到来/パソコンはおかしな工業製品/P to Pがインターネット本来のあり方/PUCの時代へ/PUCをリードする可能性がある日本……ほか
- 第3章 会社の新しいガバナンスとは?
- ビジョンが資本と出会ったとき、新しい会社が生まれる/シリコンバレーの成長を支えた精神/これからは新しい中小企業の時代/最大公約数的なマーケティングで新しいものは生まれない/ベンチャー企業の財務諸表は倒産前の会社に似ている/ベンチャーキャピタルに代わる新しい投資の仕組み……ほか
- 第4章 社会を支える新しい価値観
- ベンチャーキャピタルとの出会い/誰もやったことのないビジネスにお金を出す/アメリカンドリームに代わる新しい価値観/新しい資本主義と新しい民主主義の時代へ/新しい技術は「先進国」から、という構図は崩れる/バングラデシュではじまった新しい事業/援助ではなく、事業として位置づけることで持続性を高める/社会に貢献することが事業の目的……ほか
- 第5章 これからの日本への提言
- 日本はチャンスを生かせるか?/PUCの時代に有利な条件をもつ日本/イニシアティブをとるための体制を/健全な株式市場がベンチャービジネスには不可欠/厳しいディスクロージャー制度を/中長期の経営を前提とした新しい市場をつくる/優れた人材を日本に集めるには?/「先進国」のなかでもっとも税率の低い国を実現する/世界から必要とされる二十一世紀の日本へ……ほか
- おわりに
- 二十一世紀へのビジョン -- 技術を使って世界を変える
第4章までは、実にうなづける点が多い。著者は技術と金の関係を、頭だけではなく体でも知っている。その点にかけては日本人有数であろう。そこから出た Pervasive Ubiquitous Communication = PUC というのも、おっさん臭いものの言い方ではあるとは思うが支持できる。
原丈人「21世紀の国富論」:小鳥ピヨピヨ(a cheeping little bird)そして、書いてある内容のうち、「こうしていったらいい」という部分については、広範な知識と経験に裏打ちされた、まるで僕が思いつきそうもないような、壮大で長期的、かつ現実味がありそうな話ばかり。
といちるさんが思うのも無理もないかなと思う。
しかし、やはりいちるさんは本書のきちんと読んでいない。いや、書いてあることしか読んでない。
著者が一番言いたかったことは、本書の最終章である。そして、前章までの論考の緻密さと最終章の論考のずさんさのギャップに私はorzとなってしまったのだ。
著者はこう説く。
P. 244「先進国」のなかでもっとも税率の低い国を実現する
それは、二〇二〇年頃を目処に、日本が世界の「先進国」のなかでもっとも税率の低い国になるという目標、いわば国の政策です。法人税、個人所得税、住民税、消費税のどれかではなく、そのすべてもっとも低い国。
すばらしいですね(棒読み)。
で、その原資が何かというと、「産業を興す」と。「広く浅く取る」と。ぱーべいしぶにゆにばーさるにってことですか。
20世紀と、全然代わらないじゃん。
がっかり。
実のところ、金ならあるのだじゃぶじゃぶと。金額で世界で二番目に、Per Capitaなら世界一。
ただし、持っているのは年寄り。持っているはずなのに、未来、すなわち若者から借金してまで年寄りに資源を集中させようとしている。このことはさんざん書いたのでここでは繰り返さず、下にリンクを張っておくに留めるが、私のようなトーシローブロガーが出す程度の数字すら第5章に出てこないのには清々しいほどに飽きれてしまった。
21世紀の問題は、産業が足りないことでも金が足りないことでもない。誰の金をどこに注ぎ込むかということなのだ。そして、それがいくら必要なのか、それにどういう大義名分を持たせるか、そういうことを著者は語るべきだったはずなのだが。
Dan the Geek
(もっともその点では、ケインズ以降のマクロ経済学を頑なにスルーする弾さんも実は同罪かもしれません。むしろ、ルワンダのラジオDJよろしく人種間ならぬ世代間戦争を扇動する点ではより悪質かな。)