日経BP出版局黒沢様より献本御礼。

これだけ面白くてかつ役に立つ伝記を久しぶりに読んだ。

最強の経済学者 ミルトン・フリードマン - 池田信夫 blog
彼の著書をまったく読んだことのない人には、わかりやすい入門書だが、経済学者が読んでも得るものはないだろう。

ああ、なんともったいない。

仮にこれが100%真実だとしても、一人の男として、夫として、父としてのフリードマンに学べることはあまりに多いのに。

本書「最強の経済学者 ミルトン・フリードマン」は、ミルトン・フリードマン公認の伝記。

目次 - 日経BP書店|商品詳細 - 最強の経済学者ミルトン・フリードマンより
はじめに
序章
第一部 一九一二年 -- 九四六年
第一章 少年期
第二章 ラトガース大学
第三章 シカゴ大学 コロンビア大学
第四章 ローズ
第五章 第二次世界大戦
第六章 再びアカデミズムの世界へ
第二部 一九四六年ー一九七六年
第七章 シカゴ大学経済学部
第八章 実証経済学
第九章 家族
第一〇章 教授
第一一章 消費の経済理論
第一二章 ケインズ
第一三章 合衆国の貨幣史
第一四章 シカゴ学派
第一五章 資本主義と自由
第一六章 世界一周旅行
第一七章 同僚
第一八章 政策提言
第一九章 ノーベル賞
第三部 一九七七年 -- 二〇〇六年
第二〇章 選択の自由
第二一章 レーガン
第二二章 ハイエク
第二三章 教育バウチャー制度
第二四章 フリードマン賞
おわりに
付録 インタビュー
原註
索引

「最強の経済学者」、確かにその通りだろう。しかし、ミルトン・フリードマンという人は、経済学者という肩書きを外してもなお師となりえる男で夫で父であった。これは本当に凄いことである。「公」の世界で大業を成した人の私生活が爛れているのはむしろ普通であり、我々はこういったゴシップが好きでたまらない生き物であるが、私生活のほころびを本書に期待する人は、完全に肩すかしを喰らうだろう。

この驚きは、その妻ローズ・ディレクター・フリーマンの並外れた才媛ぶりを見るとさらに増す。この女(ひと)、フリードマンと同じ早さで飛び級して、フリードマンの大学院でのクラスメートだったのだ。それが現代でも驚きなのに、ましてや1930年代である。ミルトンは、自分と専門を同じくして、自分と同じぐらいこの専門分野に対する才能を持つこの姉さん女房(といっても1年弱)と終世添い遂げる。ミレヴァとアルバートがどうなったかを考えれば、「嘘だろ」というため息さえこぼれてしまう。「恋する天才科学者」が内田先生は必読ですよ。

実際、このおしどり夫婦は仕事の面でもパートナーだった。最も有名な"Free to Choose"(選択の自由)も彼女との共著である。

しかし、この夫婦は仕事のために人生を捧げたというわけでもない。きちんと一姫二太郎の親にもなっている。仕事で大成功をおさめ、円満な家庭を持ち、そして95歳で大往生。ここまでくるともうイヤミに感じられる人も少なくないのではないか。

ここまで十全としていると、この人朴念仁ではないかという偏見ももちたくなるが、本書を読めばミルトン・フリードマンという人がいかに知人を大切に扱う、ユーモア溢れる人であったかということがいやでもわかってしまう。

最強の経済学者 ミルトン・フリードマン - 池田信夫 blog
彼ほど敵が多く、誤解された経済学者も少ない。

これがなぜかは、経済学のド素人でもわかる。人格攻撃が全く無効だからだ。ここまで非の打ち所のない人を手放しで褒められるほど、我々は強い生き物ではないのだ。最強の経済学者の最強ぶりを担保したのは、最強の私生活だったのだ。

それでは、なぜフリードマンは最強となりえたのか。

人生のあらゆる側面で、常に仮説を立て続け、現実から学び続け、そして仮説と現実が食い違う時には仮説の方を立て直してきたからだ。

フリードマンに対する最大の誤解、それは彼が「アンチ・ケインジアン」であるというものだろう。これはアインシュタインが「アンチ・ニュートニアン」であるというのと同じぐらいひどい誤解である。

P. 140
(問)ケインズの目標は資本主義を救うことだったのか?
(フリードマン)違う。ケインズの目的は、私と同じで、社会の幸福に貢献することだった。私はケインズを心から尊敬している。人間として経済学者として素晴らしい人だったと思う。大恐慌に関する仮説には同意できないが、学問というものは、仮説を立て仮説の誤りに気づくことで進歩していくものだ。

私は経済学のド素人だ。物理学も素人だがドが付かない程度には学んだ(レ、ぐらいか)。物理学者の中に、「アインシュタインはニュートン物理学に引導を渡した」という人がいるだろうか。本書の紹介には「ケインジアンやその亜流が多いわが国では、不当に軽視されてきた経済学者である」とあるが、もしフリードマン本人がこれを読んだら「それはケインズを不当に軽視した発言だ」と言うのではないか。

フリードマンは、豹変でき、豹変をためらわない君子でもあった。実際彼は増税を提言したことすらある。これを「黒歴史」という人は、君子がなんたるかがわかっていない。

こういう人を「保守」だとか「ネオコンの導師」とか呼ぶことこそ、「伝説」のたぐいだろう。本書は、フリードマン本人が著者に託した自叙伝である。伝説はここに終わり、伝記がここに始まるのである。フリードマン伝説を信じている人は、ぜひ本書でフリードマン本人と語って欲しい。最高に気分良く裏切られること請け合います。

Dan the Husband / Father of Two / Economic Animal