著者より献本御礼。

初出2008.02.01; 販売開始まで更新

一読して感じた。

本書こそが、今、日本で最も読まれるべき本であると。

本書「はじめての課長の教科書」は、中間管理職中の中間である課長がかくあるべきかを、オランダ在住のヴェンチャーのCFOがまとめたもの。正直この発想はなかった、というよりあったのだが言語化できなかった。言語化できたのは、著者が「外」から日本を長期的に眺める機会があったことと無関係ではあるまい。

傑出した個人となることを目的とした自己啓発書は、現在勝間和代を筆頭として無数にある。また、傑出したリーダーがその経験を綴った「リーダー本」または「社長本」も、吉越浩一郎をはじめ無数にある。しかし「中間」にあたる人員に向けて書かれた本は実に少ない。「社長」でAmazonを検索すると、和書だけで1,500点以上引っかかる。「リーダー」に至っては4,400点以上。ところが「中間管理職」はわずか28点。「課長」は700点弱が引っかかるが、しかしそこでは「課長島耕作」や「課長バカ一代」といった、フィクションのキャラクターの一職業としての課長ばかり目立つ。まともな「課長本」は、読了した中では「ニッポンの課長」と「「課長」の作法」ぐらいである。「はじめての」というのは、誇大広告とは言えない。

それでは、なぜ「課長本」は少ないのか。まず一番の理由は、社長と社員がいない会社はないが(社長が社員をかねている会社も多い。私のディーエイエヌ有限会社もそうだ)、課長相当の職務も持つ会社は少ないという事実がある。

NED-WLT : 本を、書きました。
実を言うと経営者の肩書きというのは、起業さえしてしまえば、僕のように非常に怪しい者でも得ることができるものです。これに対して「課長」という肩書きは、広く社内外で認められた人材にしか手に入らない、とても名誉で信頼のおけるものではないでしょうか。

私にとって大企業の定義は、「課長がいる会社」だった。中間管理職をおかねばならぬほど大きい、という意味である。某社においてCTOだった私が目指したのは「課長がいるぐらい大きくする」ということであり、課長という呼称ではなかったものの、それを達成した上で私は職を辞している。

ところが、その課長というのは現代日本においてもっとも割を食った職名ともなった。年功序列が上につかえる中、「課長代理」だの「次長」だの、「とりあえず長」としか言えない職名が職場に広がった後、バブル崩壊で組織のフラット化が進み、「窓際課長」をおいておく余裕もなくなってしまった。その過程で「課長」という呼称は「なんだかかっこ悪くて古くさい」ものとなり、「ディレクター」とか「マネージャー」とかという横文字呼称が日本でも一般的になってしまった。

しかし、待っていただきたい。課長というのは、「長」が付く呼称の中では一番かっこいいのである。「と思う」は付けない。事実なんだから。今からその根拠をおみせしよう。

(従業)員、係、課、部、社と並べてみて、そのまま動詞になるのはどれか?

課だけ、である。これのみが、「課する」という動詞になる。そして「課する」というのは、「仕事を任せる」という意味でもある。課長という言葉には、動きが伴うのだ。これがかっこよくないと思うものは、仕事ができないと私は言い切る。

その「課長」を再発見し再定義した時点で、本書は名著であることを確約されたも同然だ。

しかし、その課長は、この40年でずいぶんと曖昧なものになってしまった。

ニッポンの課長 紹介文
ところがバブル崩壊以降21世紀初頭のいま、「課長」という肩書きには、アナクロと哀愁の匂いが漂う。大企業の崩壊、組織のフラット化、実力人事の台頭--。「課長」はもはや過去の遺物?

本書は、まず「課長とはなにか」をきちんと再定義するところからはじまる。

PP. 21-22 より要約
  1. 「予算管理に実質的な責任を持つ管理職」という枠の中では最も下位
  2. 経営者と直接仕事の話をすることができる最下位のポジション
  3. 法的にも管理職として認知される最下位の地位

なんとも単純にして明快。数学のようではないか。本書を徹頭徹尾貫いているのが、この明晰さ。これこそが、かつての「課長論」に欠けていたものである。そして、課長を明白に定義すれば、課長という職種が以下に重要なのかも自ずと明らかになる。それを一目で分かるようにしたのが、以下の図である。

P. 47より
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そう。現場情報と経営情報の錯綜する位置、それが課長なのである。

サッカーでいえばボランチ。ネットで言えばプロクシーサーバー。それが課長なのである。ボランチがいなくてもサッカーは出来る。プロクシーサーバーがなくてもWebサイトは構築できる。しかしそれなしで勝てるほど、現在は甘い時代ではない。

本書は、そんな時代の課長のための教科書なのである。

しかし、あなたは言うかもしれない。「課長が重要な仕事をしていたのは、今に始まったことではない」と。そういう指摘は確かに堺屋太一などによってなされている。しかし、往事の課長はまだ経営責任がうやむやで許され、そして業務連絡は紙や電話で行っていた時代の課長である。現代の課長とは、「中間にいる」ということは共通していても、必要とされる能力はまるで違う。そのことを示すには、この目次で充分だろう。

目次
第1章 課長とは何か?
1 課長になると何が変わる?
2.課長と部長は何が違う?
3.課長と経営者は何が違う?
4.モチベーション管理が一番大切な仕事
5 成果主義の終わりと課長
6.価値観の通訳としての課長
7.課長は情報伝達のキーパーソン
8.ピラミッド型組織での課長の役割
9 中間管理職が日本型組織の強み
第2章 課長の8つの基本スキル
スキル1.部下を守り安心させる
スキル2 部下をほめ方向性を明確に伝える
スキル3.部下を叱り変化をうながす
スキル4.現場を観察し次を予測する
スキル5.ストレスを適度な状態に管理する
スキル6.部下をコーチングし答えを引き出す
スキル7 楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
スキル8.オフサイト・ミーティングでチームの結束を高める
第3章 課長が巻き込まれる3つの非合理なゲーム
非合理なゲーム1 企業の成長を阻害する予算管理
非合理なゲーム2 部下のモチベーションを下げかねない人事評価
非合理なゲーム3.限られたポストと予算をめぐる社内政治
第4章 避けることができない9つの問題
問題1 問題社員が現れる
問題2 部下が「会社を辞める」と言いだす
問題3 心の病にかかる部下が現れる
問題4 外国人の上司や部下を持つ日が来る
問題5.ヘッドハンターから声がかかる
問題6.海外駐在を求められる
問題7.違法スレスレの行為を求められる
問題8 昇進させる部下を選ぶ
問題9 ベテラン係長が言うことを聞かなくなる
第5章 課長のキャリア戦略
戦略1 自らの弱点を知る
戦略2.英語力を身に付ける
戦略3.緩い人的ネットワークを幅広く形成する
戦略4 部長を目指す
戦略5.課長止まりのキャリアを覚悟する
戦略6.社内改革のリーダーになる
戦略7.起業を考えてみる
戦略8.ビジネス書を読んで学ぶ
あとがき
参考文献

すでに手垢のついた言い回しであれば、本書の課長は課長2.0なのである。

課長の重要性を説くのはとりあえず本entryではこれくらいにしておこう。なぜなら今後本書が行き渡った頃合いを見計らって私も私自身の課長論をここで書いていくつもりだからだ。

それでは、本書は課長ないし課長にこれからなるべきものだけが読むべき本なのか?著者自身そう主張している。

NED-WLT : 本を、書きました。
本書は、新任の課長や現在課長としてご活躍されている方々にはもちろん、いつか課長になりたいと考えている係長クラスの人にこそぜひ読んでいただきたいと考えております。

はっきり言おう。著者もわかってない、と。

課長というのは、役職名でもあるが、上で指摘した通り、「課する」者、すなわち役割名でもある。たとえ日頃は社員や社長であっても、また仕事外であっても、「誰かのために、別の誰かに頼み事をする」機会というのは実に多い。オブジェクト指向の言葉を使えば、"IS-A課長"は本当の課長のみであるが、"DOES-A課長"、すなわち「課長の役割」はどこの誰にもまわってくるのである。

確かに本書は、「課長とこれから課長になる者達」の方を向いて書かれている。しかしそれはそれ以外の者に得ることがないということでは決してない。著者が想定していなかった読者の役に立つ本こそ名著ということであれば、本書は名著の名に値する。

本書は税込み1,575円のAmazonプライス。一冊から送料無料で予約注文できる。今注文すれば、届くのはバレンタインデー頃になるだろう。チョコレートを惜しんででも手に入れておくべき、あるいは渡しておくべき一冊だと言える。外れだったら私がホワイトチョコを一ヶ月後に進呈するというのはいかがだろうか。

Dan the Kacho at Large