日経BP出版局編集部第二部の遠藤様より献本御礼。いつもありがとうございます。

很棒! 面白度でも役立ち度でも、ここ数年で読んだ中国論の中で最高だった。

本書「中国動漫新人類」は、NB Onlineの同名の連載を大幅に加筆してまとめたもの。はじめ驚き、読んで納得するのは、著者が1941年生まれであること。14歳の時まで長春で生まれ育って著者は、半世紀以上にわたって中国を見つめて来た、中国人以上に中国を知る人でもある。この時間的蓄積がなければ、本書は書けなかっただろう。

目次 - 日経BP書店|商品詳細 - 中国動漫新人類より
まえがき
第1章 中国動漫新人類―日本のアニメ・漫画が中国の若者を変えた!
  1. 中国清華大学の「日本アニメ研」が愛される理由
  2. 『セーラームーン』で変身願望を実現した中国の少女たち
  3. 『スラムダンク』が中国にもたらしたバスケブーム
  4. なぜ日本の動漫が中国の若者を惹きつけるのか
  5. 意図せざる?知日派?の誕生―中学3年生から見えてくる日本動漫の影響度
  6. 『クレヨンしんちゃん』にハマる中国の母娘
  7. 日本にハマってしまった「哈日族」たち
第2章 海賊版がもたらした中国の日本動漫ブームと動漫文化
  1. 初めて購入してみた海賊版
  2. 「たかが動漫」と、野放しにした中国政府
  3. 動漫の消費者は海賊版が育てた
  4. 仮説:「タダ同然」のソフトが文化普及のカギ
  5. 中国における動漫キャラクターグッズの巨大マーケット
  6. 日本動漫の中国海賊版マーケット
  7. 進化する海賊版製作方法―DIY方式と偽正規版
  8. 中国政府の知財対策と提訴数
  9. 日本アニメの字幕をつくる中国エリート大学生たち
第3章 中国政府が動漫事業に乗り出すとき
  1. 中国のコスプレ大会は国家事業である
  2. 中国の大学・専門学校の75%がアニメ学科を
  3. 国家主導のアニメ生産基地の実態
  4. アニメ放映に関する国家管理―許可証制度
  5. 『クレヨンしんちゃん』盗作疑惑の背景に見えてくるもの
  6. 中国政府は、日本動漫をなぜ「敵対勢力」と位置づけたのか?
  7. ゴールデンタイムにおける外国アニメ放映禁止令が投げかけた波紋
  8. 日本アニメ放映禁止に抗議して、地下鉄爆破宣言をした大学生
  9. 日本アニメの多くは、実は中国で制作されている?
  10. アメリカも崩せない中国ネット監視の壁
第4章 中国の識者たちは、「動漫ブーム」をどう見ているのか
  1. 北京大学文化資源研究センター・張頤武教授の見解
  2. 『日本動漫』の作者・白暁煌氏の見解
  3. 中国美術出版社の林陽氏の経験
  4. ある政府高官の、日本動漫に関する発言―中国はいずれ民主化する
第5章 ダブルスタンダード―反日と日本動漫の感情のはざまで
  1. 清華大学生の日本動漫への意識と対日感情
  2. ネット上での日本動漫と対日感情に関する議論
  3. 中国人民大学の「日本動画が中国青年に与える影響」に関する報告書
第6章 愛国主義教育が反日に変わるまで
  1. なぜ愛国主義教育が強化されるようになったのか
  2. 「抗日戦争」と世界反ファシズム戦争との一体化
  3. 台湾平和統一のために「抗日戦争」協調路線を展開
  4. 台湾系アメリカ華僑華人社会と、中国政府の奇妙な関係
  5. 華僑華人・人権保護団体が巻き起こした慰安婦問題
  6. ネットで暴れる民族主義集団―憤青
  7. 日中の戦後認識のズレは、どこから来るのか - アメリカに負けたのであって、中国に負けたとは思っていない日本
第7章 中国動漫新人類はどこに行くのか
  1. 日本動漫が開放した「民主主義」
  2. ウェブににじむ若者の苦悩―「親日は売国奴ですか?」
  3. 愛国主義教育は中華民族の尊厳のためか、それとも中国共産党の基盤強化のためか
  4. 中央電視台が温家宝のために敷いた赤絨毯―「岩松看日本」
  5. 精神文化のベクトル、トップダウンとボトムアップ
  6. 中国が日本に「動漫」を輸出する日
あとがき

しかし、扱っているのは「動漫」、すなわち中国における日本のマンガとアニメの位置づけである。この文章の瑞々しさは著者が還暦を過ぎているようにはとても思えない。中国を積分的に知る著者が、一端現代中国を微分して再積分して導き出したのが本書なのである。これが面白くないわけがない。

本書は、単純に「日本動漫が中国でバカウケ」という現代中国事情を紹介したものではない。それが中華人民共和国の将来にどのような意味をもたらすかまできちんと書いてある。それも著者の推論に留まらず、共産党の幹部へのインタビューまでをも通して裏打ちされてある。特に第4章には、ぞくっとするような発言が目白押しである。

アニメ産業が、いずれ民主化を招くということは、当然のことですよ。中国はいずれ民主化するでしょう。それも長い目で見れば、当然の帰結です。

これはアニメ産業の従事者の言葉ではない。中国政府高官の言葉である。中国を低品質の代名詞として使うのは日本に限った話ではないが、少なくとも政府高官の質に関して言えばこれはあてはまらない。霞ヶ関の食堂に爪のあかを常備したいぐらいだ。

しかし、こういう言葉をきちんと引き出せるのもまた、著者ならではなのだろう。中国人というのは、「外」に対しては鉄面皮でも「中」に入れば実に率直であり、そういう中国人の実像を日本のマスメディアが正しく伝えているとはとても言えない。なぜ正しく伝えていないかといえば、日本のマスメディアは外からしか中国を観察していないからだ。それが本書の価値をさらに高めている。

中国は、すでに貿易の上では合州国以上に日本に近い国である。この国を知らずして、日本の明日を知る事はもはや出来ない。毛嫌いしている余裕があると思っている人は、外国人を毛唐よばわりしたあげく完敗した歴史を今一度思い出すべきだろう。まずは一読を。

Dan the Occasional China Watcher