きたみりゅうじさんから一気に四冊献本御礼。

どれも書評したいのだけど、やはり最初はこれかな。

フリーランスのジタバタな舞台裏 (キタ印工房)
2005年3月に技術評論社から出した『フリーランスはじめてみましたが…』という本が、『フリーランスのジタバタな舞台裏』というタイトルで文庫として明日店頭に並びます。

本書「フリーランスのジタバタな舞台裏」は、IT界のカリスマライター/イラストレーターきたみりゅうじが、3年のデスマーチ生活を経てフリーランスライター/イラストレーターとして一本立ちに至るまでのドタバタぶりを書いて描いた一冊を、さらに文庫化したもの。

目次
第一章 会社を辞めたのだ
第二章 火だるまゴロゴロ
第三章 隠居生活のはじまり
第四章 自由は冷や汗とともにある
第五章 バーゲンセール、捨てる神ありゃ拾う神
第六章 自分色のヨロコビ
第七章 アリの一念岩をも徹せ
第八章 じわりじわり
第九章 寝れないんだもん関係ねぇや
第十章 うれしいお知らせ
第十一章 社長の苦悩とキャバクラと
第十二章 快・進・撃
第十三章 二年目に出た結論
第十四章 時給とのタタカイ
第十五章 十年振りの再会
第十六章 自由業は不自由業
第十七章 天井知知らずは空青く
あとがき 〜子煩悩パパの幸せ〜
文庫版あとがき 〜その後のフリーランス暮らし〜
解説 よしたに

本書を読んで、なぜ著者にこれほどの人気があるのか、あらためて納得した。絵も文もうまいが、それはきたみりゅうじという氷山の一角に過ぎないのだ。

まず、描く対象を肌で知っている事。いくら筆が立っても、描く対象を知らなければ、写生にはなっても物語までは描けない。著者はそれを3年間のサラリーマン生活で学んだ。このサラリーマン生活は「新卒はツラいよ」に詳しい。絵はこちらの方が多いので、絵師きたみりゅうじを楽しみたい人はこちらの方がいいかも知れない。

しかし、対象を知り、それを表現する技能があってもなお、フリーランスとして独り立ちする必要条件が満たされたとは言えない。それが何なのかは是非本書から読み取って欲しいが、重要なのはフリーランスというのは単能者には不適だということだ。

本書には、著者の収入を同期のサラリーマンたちがうらやむシーンが出てくるが、しかしその同期のサラリーマンたちがもらっているサラリーなるものはフリーランスにはなく、打ち合わせや取材から確定申告に至るまで、会社勤めなら会社まかせに出来ていたことが全て自前なのである。収入の差はその差だと行って言いだろう。フリーランスが儲かるのではない。サラリーマンの給料からは雑務という必要経費が天引きされていると見るのである。「自由業は不自由業」、まさにそのとおりだ。

しかしどういう不自由を選ぶのか、まさにその一点において自由なのだとも言える。やりたいことをやりたいからフリーランスなのではない。やりたくないことをどうやらないか、なのだ。

だから、やりたいことだけをやりたい人は、むしろ雇用されるべきなのである。フリーランスを続けるには、全能性が必要なのだ。

本書はだから、フリーランスになりたい人もさることながら、サラリーマンがいやになった人にむしろお勧めかもしれない。会社を辞めるのは、本書を読んで「それでも会社を辞めますか?」と自問した後でもかまわない。どちらに進むにせよ、520円で早まらずに済むのだから安いものである。

ところで、今度私が出す本では、このきたみりゅうじさんによるインタビューが収録される。きたみりゅうじの描く弾がどうなるのか、今からわくわくしている。

Dan the Freelance