バカな人事」はあさ出版編集部吉田様より、「社員を働かせてはいけない」は著者本人よりそれぞれ献本御礼。

双方とも、人事コンサルタントで、双方とも「今後人事はどうあるべきか」を本にまとめたものであるが、その姿勢は実に好対照だった。

結論から言うと、読むべきなのは「社員を働かせてはいけない」の方。「バカな人事」の方は心にもふところにもよほど余裕があれば読めばよい。もっとはっきり行ってしまうと、私が経営者の立場で人事コンサルタントを探していたとすると、依頼するのは蛭田敬子の方ということになる。

「バカな人事」 - 目次
第1章 日本の会社の「人事」はここが間違っている
第2章 「公平な評価」が不公平を生み出している
第3章 社員として知っておかなければならないこと
第4章 「人事」の本当の目的とは何か
第5章 「人事」で会社のこれからが変わる
「社員を働かせてはいけない」目次
はじめに
第1章 新人類「不戦人間」の誕生
第2章 なぜ若者は辞めるのか
第3章 会社は何をするべきなのか
第4章 「キャリアアップ」を絵にして考える
第5章 他人を知る、自分を知る
第6章 ああ、上司の勘違い
第7章 上司の仕事って何?
第8章 経営者は教育者である
第9章 社員を「働かせて」はいけない
第10章 女性が近未来の救世主!?
【あとがき----の前に】中身が足りない報に踊らされるな  
あとがき

まずは、「バカな人事」の方から。同書の分析と指摘が別に間違っているわけではない。しかし著者の会社のモットーである、"Think like the CEO"は「間違っている」。まず英語が間違ってる。"Think like a CEO"だろう。なぜaでなくてはならないかはここでは割愛する。それくらい自分で調べること。

しかしより重要なのは、"Do not behave like a CEO"になっていないこと。それがわからぬのではコンサルタントではない。

「バカな人事」 - P. 110

「では、中村顧問は、どう思いますか」と経営者が私に意見を求めてきました。そこで私は正直にこう発言したのです。

「そもそも業績を自動的に上げてくれるような、魔法の計画などありません。それに、目標は高く設定することが重要であり、すぐにでも達成できるような目標では、いつまでたっても業績は上がらないでしょう。[中略]...」

最初に発言した管理職の人は、みるみる怒りをあらわにしていきました。しかし、私はこう続けて言葉を締めくくったのです。

「経営とは精神力です。[中略]」

結局「中村顧問」はその場でクビになり、そしてこの会社の業績も傾いたとのことだが、ここで中村顧問は自分の役割を果たしたといえるだろうか。社員ならばYesかもしれないが、コンサルタントとしてはNoだ。

なぜなら、コンサルタントはあくまで「外の人」であるからだ。助言(consult)は出来ても決断(decide)は出来ない。だからコンサルタントは、正しいことを言うだけではだめなのだ、意図を正しく伝え、顧客たる経営陣を納得させてはじめて正しい仕事をしたと見なされるのだ。

コンサルタントの仕事は、正論で相手を論破することではないのだ。それをやりたかったら「朝まで生テレビ」のスピーカーなりを目指すべきだろう。

私が顧問だったら、こういう感じで話しただろうか。

「まず、目標が何のためにあるのかを再確認しましょう。未達だと会社が潰れてしまうのですか?そうではなく、社員の能力を最大限に発揮させるために存在するのですよね?だとしたら確実に達成できる目標では低すぎることになります。目標がなくても達成できてしまうのですから。目標は、能力を最大限発揮してはじめて達成できるような高さに設定するのがよいのではないでしょうか。」「その一方で現在御社が持つ能力を最大限発揮してもすぐにはたどり着けないほど高い目標では、社員はかえって萎えてしまいます。その点を考慮して、もう一度目標の設定が適切かを検証してみませんか?」

なぜ目標が「高いか低いか」という定性的なものでは不十分で、具体的なものでなければならないかの理由も、これで説明される。残念ながら本書に一番足りないのは、この具体性であった。

もう一方の「社員を働かせてはいけない」は、この点実にコンサルタントらしい、腰が低く、しかし言うべきことをしっかり言った一冊だった。

まず「社員を働かせてはいけない」という「釣りタイトル」。これはもちろん「社員を遊ばせろ」という意味では全くない。「会社に働かせられているのではなく、社員が自ら働きたくなるような環境づくりが、今後ますます重要になる。そのためにはどうしたらよいか」というのが本書なのである。

P. 21
私は、会社の役目の一つは、迷いを断たせることだと思っています。こうすれば君の価値観に合うものが手に入るよって教えて上げる。それだけでは、人はまた飽きたり迷ったりするので、それを達成していく慶びを感じさせる。成長し生きている実感を与えるんです。

そういう著者の言葉は、経営者にとってだけではなく従業員にとっても厳しくやさしい。

自分らしさが最初からあとおもうこと自体が間違い。自分らしさとは、生きていく中で様々な人や出来事に出会いながら、「自分はこんな人間なんだ」と気づくことでしかわからない。

自分らしい生き方をしたいということは、自分の価値観(幸福を感じる尺度)を自覚して、それ以外の誘惑に目移りしないことでしか生まれない。自分がわからないのに、自分らしい仕事などわかるはずもない。

これ、実は「自分探しが止まらない」への見事な回答にもなっている。悔しいが著者のほうが私のそれより上手な答えである。

この著者、造語力もなかなかのもの。「不戦人間」「必然変異」など、読んでいてかなり楽しい。本書自体が「読者に読ませてはならない」の見事な実践例になっている。

それにしても、「書評x2」では、安い方の本に軍配が上がることが多くてアフィリエイターとしては困る(苦笑)。そうでない例ももっと取り上げていきたいものだ。

Dan the Yet Another Consultant